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伝統技能とモダンのクールな融合。漆黒の江戸切子

伝統技能とモダンのクールな融合。漆黒の江戸切子

漆黒の模様を用いた江戸切子「KUROCO」

 色ガラスをかぶせたガラスの表面を研削盤でカットして繊細な模様を入れる江戸切子。赤や青の色ガラスを使うのが主流だが、直線的でモダンな模様をモチーフに漆黒の色ガラスを用いた「KUROCO」が脚光を浴びている。“クール”な製品に敏感な若者の心を捉え、サントリーやバーニーズニューヨークなどとのコラボ製品も誕生。新たな市場の開拓に成功している。

 「フローリング床のタワーマンションなど現代の空間に合うカッコイイ江戸切子を作りたかった」―。木本硝子(東京都台東区、03・3851・9668)の木本誠一社長は、KUROCO誕生の理由をこう語る。

 もともと木本硝子は百貨店などにガラス食器を卸す問屋だった。だが、バブル崩壊後、徐々に売り上げが減りリストラを経験する。構造改革に迫られる中、木本社長が打ち出したのが、問屋業で培った人脈を生かしたプロデュース業だった。

 問屋はモノづくりの職人、顧客ニーズを知る小売業者、ニーズを具現化するデザイナーと人脈を持つ。「この3者の意見をまとめた製品で新たな市場を開拓できる」と考えた木本社長は、知り合いのデザイナーから要望を受けた黒いグラスを作ろうと田島硝子(東京都江戸川区)などなじみの職人に製作を依頼する。

 黒は光を通さないため、製作時に研削砥(と)石とガラスが当たる部分が見えず、製作は困難とされた。だが1年間の試行錯誤の末に開発に成功。今までにない漆黒で斬新なデザインが受け、大手百貨店に加え、インテリアショップやセレクトショップにも置かれるようになった。

 現在は、日本酒の味と香りを最大限引き出すグラス「es」の海外展開に注力する。「タイプの違うワインによってグラスを変えるように、日本酒もタイプごとにグラスを使い分けるよう提案している」(木本社長)。海外にも頻繁に出張する木本社長のアポイントメントの取り方はフェイスブック。「フェイスブックでつながれば30分で用件がまとまる」と語る木本社長のアカウントには3000人近い友達が登録されている。
現代の空間に合う江戸切子を作りたかった…と木本社長

【メモ】江戸切子協同組合によると、1834年(天保4)、江戸大伝馬町のビードロ屋、加賀屋久兵衛が金属砂を用いてガラスの表面に彫刻をしたのが始まりとされる。1873年(明6)、品川興業社硝子製造所が開設され、切子指導者として招かれた英国人のエマニエル・ホープトマン氏に指導を受けた十数人の日本人によって現代に伝わる江戸切子のガラス工芸技法が確立された。
日刊工業新聞2017年4月14日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
赤や青の印象が強い江戸切子。黒は海外のインテリアにも合いそうですし、一気に用途が広がった感じがします。

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