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六本木ヒルズ「逃げ出す街から逃げ込める街」への防災力

半径2・5km圏内の社宅には100人が住み非常時に迅速な初動
六本木ヒルズ「逃げ出す街から逃げ込める街」への防災力

六本木ヒルズの備蓄品。10万食の非常食のほか簡易トイレ、毛布、医薬品、紙おむつなど多種多様

 東京都港区を中心に都市の再開発を進める森ビル。昔ながらの木造の建物が密集する地域を最新鋭の高層ビル・マンションに集約し、周辺道路などを含めて一体開発することで都市の防災化にも大きな効果を上げてきた。掲げるコンセプトは「逃げ出す街から逃げ込める街へ」。誰もが安心して住み、訪れることができる防災拠点を目指し、ソフト・ハードの両面で防災力を進化させている。

 森ビルが「逃げ出す街から逃げ込める街へ」という再開発のコンセプトを打ち出したのは、1995年の阪神・淡路大震災がきっかけだ。倒壊した建物の下敷きになって多くの死者が出た上、木造住宅が密集していた神戸市長田区などは火災で甚大な被害を受けた。

 被災地の視察やヒアリングを通じて直下型地震への危機感を強めた森ビル経営陣は、得られた知見を当時進行中だった「六本木ヒルズ」のプロジェクトに早速盛り込んだ。

 平時・非常時にかかわらず域内に電力を供給する独自のエネルギープラントや、トイレの排水用井戸などの導入がこのとき決められた。

 95年には大規模災害に対処する専門部署「震災対策室」も発足した。平時には訓練の計画立案や地域との関係構築に携わり、非常時は社長を本部長とする「震災対策本部」の下、情報をとりまとめる役割を担う。
昨年3月の震災訓練。近隣の町会や商店会、学校、消防団など例年1000人ほどが参加

地域と連携


 「再開発は地域住民と手を携えて進めるもの。防災も同じだ」(寺田隆震災対策室事務局長)。地域の防災協議会や避難訓練への参加、広報活動などを通じて信頼関係を醸成することで、非常時の活動も円滑に進む。「東京都帰宅困難者対策条例」など条例づくりにも関わり、行政機関との連携も強めている。

 震災対策本部は、東京23区内で震度5以上の地震が観測されると自動的に組織される。各部署も対策組織へと移行し、それぞれの活動を始める。

 「夜間や休日に大規模な災害が起こる場合もある。通信制限も想定される」(同)ため、指示がなくても活動できる仕組みをつくった。六本木ヒルズの半径2・5キロメートル圏内に設けた社宅には100人ほどが住み、非常時の迅速な初動を可能にしている。

 2011年に発生した東日本大震災では幸い、保有する施設に目立った被害はなく「六本木ヒルズ」や「ヴィーナスフォート」で帰宅困難者を受け入れた。震災後は新たに得られた教訓を踏まえ、地震発生直後に建物の被災度を推測するシステムを導入。

熊本地震で見えてきた課題


 16年に起こった熊本地震では新たな課題も浮上した。「地震発生から数十日後でもかなりの人が避難所に残っていた。こうした被災者に対して『3日たったので出て行ってください』とは言えない」(同)。

 備蓄品の充実だけでなく、被災者の受け入れ施設をどう増やすかが課題だ。行政機関や地域の企業などとの連携が一層重要になってくる。「東京の国際競争力を高める上でも防災性の向上は欠かせない」(同)。さらなる防災力向上に向け、試行錯誤を続けている。
(文=斎藤正人)
日刊工業新聞2016年12月5日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
コンビニが地域の防災拠点とし存在感を増しているが、それに劣らず大手デベロッパーの役割は大きい。当然、情報交換はしているだろうが、六本木でいうならミッドタウンの三井不動産など横の連携も不可欠。

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