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バルブの歴史を知ることで日本のイノベーションの課題が見えてくる

若者の力、黎明期を作る。イノベーションには温故知新
バルブの歴史を知ることで日本のイノベーションの課題が見えてくる

1929年の万国工業会議に合わせて作られた 「INDUSTRIALIZED NEW JAPAN-NUMBER」


問題解決型モデルにシフト


奥津 バルブ産業は世界で5兆円超の市場で、国内市場は4000億円程度です。日本のバルブ技術はもともと、米国や欧州から来てそれを日本で品質を上げ着実に成長してきました。どこの機械産業も同じですが、成熟した産業では後発国との厳しい競争にさらされています。ビジネスの最前線ではバルブ機器本体技術を掘り下げ、メンテナンスや付加価値の高い問題解決型のビジネスモデルにシフトしつつあります。

 だからこそ今ブレークスルーに力を入れたいのです。音・振動や材料疲労を軽減する、漏えいを制御する、高圧でも使える超高強度材料にする、寿命予測、ビッグデータを活用した社会規模での自律型流量コントロール、無線通信など、まだまだ付加価値のつく可能性は多くあるのです。

 またインターネット包囲網の中で、利便性とともにつながることによるリスク、その二面性に注意しながら製造業は変革が必要です。製品ライフサイクルにわたる全情報交換はサイバー上で行われつつあります。ITアナリスト人材も豊富に育てバルブ産業を変えていきたいのです。こうした悩みは全基盤産業で共通に抱えていると思います。

デザイン力の高い人材が支える


広崎 社会のさまざまなところにいきわたったバルブは、安全性が求められる最重要な機器ですよね。将来を考えると材料、機械、制御、IoTなどすべてを把握した総合的に考えられる人材を育てないといけないということですね。大学にはそれぞれの専門家はいるかもしれませんが、総合的にというのは難しい。

 会社のOJTで教えようにも、そもそも経験していないから無理な話です。教える方もそういう総合的な考え方をする教育を受けてませんからね。私はそれこそ学会という組織がやるべきではと思っています。学会が蓄積してきた知恵を融通し合って、大学でも産業界でもできないような人材育成を学会が担う、そんなあり方を日本工学会は目指しています。CPD協議会ECEプログラム認定制度はその具体化の一つです。

奥津 総合的な視点で考えて役に立つバルブを開発し、提供していく人材には新しい総合体の学問提供が必要なのですね。

広崎 日本の工学教育は世界からみるとデザイン力に欠けています。デザインの語源はラテン語の「デ・ザイン」。ザインは形にするという意味です。つまり先ほど言った日本が身につけなければならない体系化です。

 今、文部科学省も日本の工学界を世界レベルに戻そうとデザインのカリキュラムに力を入れていますが、人材が育つかはまた別の話です。新しい血潮は育てていくしかないのです。

 WECC2015では「社会の中のエンジニアリング、社会のためのエンジニアリング」という考え方で、総合的なエンジニアリングを打ち出しました。金融関係者なども含め幅広い方々に加わってもらって、実際に役に立つ人材を育てることをポイントにしたら、世界の工学関係者からとても大きな反響がありました。

奥津 まさにバルブ産業も社会を支えるインダスリーであり、デザイン力の高い人材に支えてほしいと切望しています。
広崎膨太郎氏(ひろさき・ぼうたろう)
1946年生まれ。2008年NEC代表取締役執行役員副社長、現在、特別顧問。日本工学会副会長。CPD協議会で会長を務める。
奥津良之氏(おくつ・りょうじ)
1957年生まれ。アズビル・アカデミー技師長。日本工学会フェロー。計測自動制御学会フェロー。国際電気標準会議ではTC65/SC65B/JWG17で議長を務める。


日刊工業新聞2017年3月21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 バルブは産業プラントや建築設備、食品・医薬品工場などありとあらゆる場所で流体をコントロールする要。小説からテレビドラマにもなった「下町ロケット」で描かれたように、ロケットエンジンから人工心臓弁まで、多様な分野を縁の下で支える産業。ただ、世界的な潮流として押し寄せる製造業のデジタル化などの中で、新しいアイデアを生み出し、活力ある産業への変革が必要。ここまでバルブを取り上げるメディアは日刊工業新聞(ニュースイッチ)だけです。

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