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バルブの歴史を知ることで日本のイノベーションの課題が見えてくる

若者の力、黎明期を作る。イノベーションには温故知新
バルブの歴史を知ることで日本のイノベーションの課題が見えてくる

1929年の万国工業会議に合わせて作られた 「INDUSTRIALIZED NEW JAPAN-NUMBER」

 バルブは産業プラントやインフラ設備などにおいて、流体をコントロールする要。バルブ業界は他の基盤産業と同様に、グローバル競争を生き抜くため時代を切り開く若手技術人材の育成が喫緊の課題である。3月21日は「バルブの日」。国内95の工学系学会・協会で構成する日本工学会の広崎膨太郎副会長(NEC特別顧問)と、日本バルブ工業会の奥津良之広報副委員長が対談。次世代技術者の教育のあり方やイノベーションを育む秘訣(ひけつ)などについて語った。

昔のことを勉強して理解


奥津 日本工学会は、とても歴史ある団体ですね。バルブ業界では科学技術イノベーションができる人材の育成が課題ですが、それには温故知新で昔のことを勉強してよく知らないといけないと感じています。

広崎 東京大学工学部の前身である工部大学校の卒業一期生を1879年に組織化したものが日本工学会です。この大学校は1873年にスコットランドのグラスゴーから来日したヘンリー・ダイアーが校長となり築いたもので、日本の技術者教育はここからスタートしています。

 当時、英国では理学系に比べエンジニアリングはどうしても低く見られがちでしたが、まだ20代だったダイアーなど若者たちはエンジニアを大学で育てることの重要性を感じていました。

 その時、日本から視察に来たのが伊藤博文や山尾庸三といった明治政府の若い役人です。彼らは日本で一刻も早く産業革命を起こさねばと「あなたの夢を日本で実現しませんか」とダイアーに呼びかけ招聘(しょうへい)したのです。

 そうしてできた大学校の一期生からは、日本の化学や薬学の基礎を作った高峰譲吉、近代建築家の辰野金吾などそうそうたるメンバーが生まれています。やはり物事の黎明(れいめい)期を作り、イノベーションを興すのは若者のあふれるようなエネルギーなのだと思います。

奥津 1923年の関東大震災を経て、29年に日本工学会は東京で「万国工業会議」を開き、海外から約1300人を含むエンジニア4495人を呼んで、日本の工業技術と日本企業の紹介を行い、高い評価を得たそうです。

 当時、全編英語で日本の産業が紹介された「INDUSTRIALIZED NEW JAPAN-NUMBER」が発行され、参加者に配られていますが大変貴重な資料です。

 またこの会議は世界の工学関係団体の連合体である世界工学団体連盟(WFEO)創設の契機となりました。これは後に、広崎さんなどが中心メンバーになって2015年に京都国際会館で開かれた「第5回世界工学会議(WECC2015)」にまでつながっているのですね。明治や大正という時代の大きなうねりがあったからこそ、今がある訳です。基盤産業にいる立場からみると、昭和や平成にモノづくりは進歩しましたが、根本的理論が確立されたのは明治や大正時代でないかと思うのです。
奥津氏(左)と広崎氏

3つの知が不可欠


広崎 科学や工業、哲学・美術も含め世界で大きなパラダイムの変化の時だったのでしょう。アジアでは日本が先頭にたって近代化を成し遂げ、それが世界大戦の悲劇を経て、敗戦後には驚異的な高度経済成長をもたらしました。

 ではなぜ、日本がそうした歴史をたどってきたのか。マイケル・ポランニーという科学哲学者が人間社会には「認識知」と「形式知」だけでなく、言葉では言い表せない創造能力として「暗黙知」という不思議な力が働くという理論を提唱されました。

 それを野中郁次郎一橋大学名誉教授が経営哲学に置き換え、暗黙知を誰にでもわかるよう形式知にして組織に広げると組織の知のレベルが上がり、また新たな暗黙知ができてくると説明しました。高度経済成長を実現した日本の現場力の根底にそうしたダイナミズムが働いていたのだと説明し、世界で驚かれました。

 複雑で多様性に富んだ現代で、次世代にどの能力を高めてもらうかと考えると、やはりこの「暗黙知」という気がします。これまで築き上げられた膨大な認識知も形式知もあるけれど、これを勉強するだけでは不十分です。

 形式知や認識知を結びつけるような総合的な知が求められると。古代ギリシャ時代の哲学者アリストテレスも同じように知には三つのレベルがあり、エピステーメ(不変の真理)、テクネー(ノウハウやテクニック)に加え、三つ目として「フロネーシス」、日本語で「賢慮」や「実践的知恵」などと訳されますが、その重要性を説いています。

時間をかけて本質を教える


奥津 暗黙知の重要性はよく聞きますが、分かりづらいところもあります。本当の暗黙知は形式知に置き換えられるものでしょうか。経験でしか得られないような気もします。私たちはこれからどんどん若い人材を育てなくてはならないわけですが「暗黙知」や「賢慮」を踏まえて具体的にどういった形で教えれば良いのでしょう。

広崎 時間をかけて本質を教えなければならない、ということでしょうね。新しい考えが生まれるときというのは奇抜なものが突然、生まれるだけではないのです。経験も認識知も分かっていて、もっとそれ以上にその間をつなぐものが分かってきて、ある日突然、新しいものを思いつくということがあります。電磁気学のマクスウェル方程式を丁寧に追いかけていたアインシュタインが、ふと気が付いて相対性理論を確立させた事例がまさしくそれです。

 日本人はもともと本質をつかむ力は優れていると思います。ただ体系化は苦手ですね。基礎技術は日本で開発されているのに体系化ができないからビジネスになっていないものがたくさんあります。これからの日本のエンジニア育成課題は体系化能力をもっとブラッシュアップしていくことだとも言えます。

変える気持ちが重要


奥津 文化とか国民性で育まれて今の日本人がありますが、そこを教育で変えていくことは難しくも感じます。

広崎 江戸時代の米沢藩を立て直した名君として知られる上杉鷹山は「たとえ小さな炭でも火を絶やさないようにしないといけない」と言ったそうです。何かをやろうという時はできるかな?できないかな?ではなく、変わるかも、変えよう!という気持ちを持って小さな火を絶やさないようにする、これは本当に重要なことだと感じます。

 バルブ産業で人材育成が切実に求められている、その背景についてよく知りたいです。

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日刊工業新聞2017年3月21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
 バルブは産業プラントや建築設備、食品・医薬品工場などありとあらゆる場所で流体をコントロールする要。小説からテレビドラマにもなった「下町ロケット」で描かれたように、ロケットエンジンから人工心臓弁まで、多様な分野を縁の下で支える産業。ただ、世界的な潮流として押し寄せる製造業のデジタル化などの中で、新しいアイデアを生み出し、活力ある産業への変革が必要。ここまでバルブを取り上げるメディアは日刊工業新聞(ニュースイッチ)だけです。

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