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ソニーが新事業創出プログラムを欧州で展開

まずスウェーデンで拠点立ち上げ
ソニーが新事業創出プログラムを欧州で展開

新規事業を創出する仕組みを横展開してイノベーションを活性化(左が平井一夫社長)


いかにシンプルなものにして世に出すか


 ー新規事業創出部の担当部長の小田島(伸至)さんとは以前から面識があったんですか。移ってからのプロジェクトの位置づけはどう変わりましたか。
 「小田島とは異動する直前に初めて会いました。僕らのプロジェクトは新規事業創出部の中でも特殊というかモルモット的なプロジェクトという言い方もできます。4月に部ができて、『シードアクセラレーションプログラム』は10月から社内オーディションでアイデア募って、セレクションする予定でした」

 「そもそも社内でベンチャーのように活動するにはどうしていくか。誰もやったことがないので、小田島とかと一緒に考えながらやってきました。僕らは『シードアクセラレーションプログラム』のセレクションを通ったわけではないのですが、最初から部にいたので。基本的にプロジェクトの運営は自分たち実行者に委ねられていますが、でも事業化が約束されていたわけではありません。プログラムでは3カ月に一回、事業化継続を判断していく形をとっていましたから」

 ー時計という形で行こうと決めたのはいつですか。
 「新規事業創出部に来てからです。最初は電子ペーパーで何かファッションアイテム作ろうという感じだったんですが、最初の三カ月で時計にしようと。メンバーとブレストもしたし、リーンスタートアップのようにアイデアを社内外に人に見せて『どうですか?』とヒアリングしたり。その中で時計が一番フィットするということで選びました」

 ー社外の人にも結構会いに行かれたんですね。
 「想定顧客の仮説を立て、いろいろな人に電話して会いに行ったりしました。『いいね』って言ってくれた人には、他にもこういうのを好きそうな人を紹介してもらったり」

ー社内外の意見で大きかった気づきは何ですか。
「気をつけないといけないと思ったのは、いかにシンプルなものにして世に出すか。やりうることはすごくいっぱいあって、全部入れたらゴテゴテしたものになってしまう。また、決められた期間、人数と予算の中で、多くの要素が詰まったものはできないので、何を捨てるかが一番難しいんです」

 ー泣く泣く削ったものは。
「それを言ってしまうと次にやることがばれてしまう(笑)。そもそもは、柄が変わるファッションアイテムをやりたかった。ファッションは個性の世界なので、自分の好きなものを選びたい。でもFES Watchは、柄のデザインは24通りで、それ以上増やしたり減らしたりできない。まずこういう形からスタートすることにしました」

 ー色はこれから増やしていくのですか。
「今は白と黒だけです。他の色を出せますが、いろいろハードルはあります。ユーザーの要望を伺いながら考えていきたいと。電子ペーパーはデバイスで、素材を育てていく考え方もありますが、開発されるのを待つよりは、今の段階で出してみて、ユーザーと一緒にどうなるべきかを考えていきたい」

 「時計に限らずカラーバリエーションがあるものは、全部、このモデルへ置き換えられる。机とかインテリア、クルマが欲しい、と言われたりもします。その人が愛着を持つものは全部、自分色にしたいという願望はあるはずなので、すごく広がりがありますね」

「個別案件のリスクよりもビジネスが立ち上がらないことを心配するべき」


新規事業の後ろ盾になった現ソニーモバイルコミュニケーションの十時社長(左)


 ークラウドファンディングでやろうというのは早い段階で決めていたんですか。
 「最初の3カ月の継続判断の時に、クラウドファンディングをさせてください、と言いました。ジャッジしたのは小田島と、担当役員だった十時(裕樹)です」

 ー十時(ととき)さんは子会社からソニー本体の経営企画担当役員になった「ソニー改革」のキーマンの一人ですよね。十時さんとのコミュニケーションはどんな感じだったんですか。
 「僕らのチームは特に多かったですね。十時がソニーモバイルの社長(14年11月に就任)になる前は、十時がいるフロアに朝、コーヒーを届けていろいろなアドバイスをもらっていました。毎回15分くらいですけど、月1~2回は行ってましたね」

 ー十時さんや今のCFO(最高財務責任者)の吉田(憲一郎)さんはソネットなどソニー本体の外での経験も多い。いわゆる技術開発に携わっている人たちと感覚が違いますか。
 「僕自身が役員といっても平井、十時くらいしか会っていないので何とも言えませんが、例えば十時は話しやすいし、的確なアドバイスをくれます」

 「一度、ある案件を相談に行った時に、『これをやりたいんですが、こういう障害があってなかなか進めません』と話すと、『個別案件のリスクよりも、今はビジネスが立ち上がらないことを心配するべきだから迷わず早くやるべきだ』と言ってくれて、なるほど、と思いましたね。そういう判断ができる人です」

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日刊工業新聞2016年12月1日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
基本的に日本と同様の仕組みで新事業を育成していく。ただ日本ではクラウドファンディングを活用した事業化モデルを展開しているが、欧州発のアイデアをビジネス化する方法は、事業や製品の特徴や各プロジェクトチームのニーズに合わせて今後詰める。以前取材した「FES Watch」の記事も合わせてお読み下さい。

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