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ソニーが新事業創出プログラムを欧州で展開

まずスウェーデンで拠点立ち上げ
ソニーが新事業創出プログラムを欧州で展開

新規事業を創出する仕組みを横展開してイノベーションを活性化(左が平井一夫社長)


社長にゴーサインをもらうために


 ーそのアイデアを社内の人に話したのはいつですか。
 「社内の研究開発部門で電子ペーパー技術をやっているのは知っていました。電子ペーパーを紙ではなくて柄の変わる布地という観点で、いろんなアイテムを作っていくと、あの業界に入っていけるのではないか、そこからファッションで何かできるのではないかと思っていました」

 「でもまだテレビ事業の仕事をしていて、本当にアイデアを思いついただけという感じですね。日頃からネタ帳を貯めている中に2つ、3つこれはいつかやれたらな、というのがあるんです。ファッションのデジタル化はトップ3のうちの一つでした」

 「社内の人に話したのは東京ゲームショーから1年後くらいです。2013年に自分が所属するホームエンターテインメント部門で、アイデアを募集するボトムアップイベントがあって、テーマは自由でなんでもあり。じゃ、今まで貯めてきたアイデアをこの機会に出してみようと思って、周りに『こういうのを出そうと思うんだけど』と相談しました。同じ事業部の人、昔一緒に仕事をしたことがあるデザイナー、小耳にはさんで面白そうだと参加してくれたウォークマンの部門の人と一緒にコンテストに参加しました。それがFES Watchの始まりです」

 ーコンテストで受賞はしたんですか。
 「計2回コンテストに出したんですけど、1回目は受賞できなかったんです。それでチームのメンバーも忙しくなって、一度解散しました。でもアイデア自体はやってみて面白かったので何とか続けたいと。自分はボトムアップイベントの運営側もやっていました。2回目のコンテストは運営を一緒にしていた人たちが仲間に加わってくれました」

 「1年目はプロトタイプが全然作れなかったんですが、2年目は電子ペーパーの仕事をやっている人たちも入ってくれて、受賞することができたんです。それが2014年の1月。でもまだその時点では、今、僕たちがいる新規事業創出部はありませんでした」
プロジェクトチーム(左が杉上氏)


「アイデアは面白い。そのままにしないから」(平井社長)


 ーそこから事業化への道程は。
 「ちょっと話は戻るんですが、『電子ペーパーでファッションアイテム作る』というアイデアを実現させるとしたらどうすればいいか考えたんです。そして、究極には社長の平井(一夫)から『やろう!』と言ってもらう必要があるわな、と。平井にゴーサインを出してもらうにはまず会わないといけない。会うにはどうすればいいか。アイデアコンテストに出して、受賞すれば会えるかな、と考えてアイデアコンテストで受賞を狙って活動していました」

 「2回目に出た時のメンバーの一人が、コンテストを立ち上げた人で、その件で一度、平井に会う機会があったんです。エレベータピッチで、興味を持ってもらって、秘書の方に平井が『30分時間をアレンジしてくれ』と言ってくれ、1カ月半後に会うことができた。それが2013年の12月」

 「そこから受賞して14年の1月にまた会ったら、『君たちのアイデアは面白いし、そのままにしないからちょっと待っててくれ』と言われたんです。『そのままにしない?』って何が起こるのかと思っていたら、新規事業創出部というのができると。『やってみるか?』と言われ、『はい、やります!』という感じでした。平井は性格も明るいし、新しいことが好き。やりたがっている人には耳を傾けてくれる。それで4月から今の部署です」

 ーチームのメンバーはいろいろな部門に所属しています。人を引き抜かれることに抵抗するケースもあったりしますが。
 「異動自体はスムーズでした。平井などマネジメントの意向もあったし、私のホームエンタテインメント部門も新しいチャレンジにはポジティブで、『がんばれよ!』と送り出してくれました。他のメンバーもこのアイデアを仕事でやりたいと思って活動してきたので全員が新しい部署に移りました。ボトムアップイベントに出て賞もとっていたので、社内でも初耳ではなかった点もプラスだったと思います」

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日刊工業新聞2016年12月1日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
基本的に日本と同様の仕組みで新事業を育成していく。ただ日本ではクラウドファンディングを活用した事業化モデルを展開しているが、欧州発のアイデアをビジネス化する方法は、事業や製品の特徴や各プロジェクトチームのニーズに合わせて今後詰める。以前取材した「FES Watch」の記事も合わせてお読み下さい。

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