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日立製作所取締役会長 中西宏明 「ソサエティー5.0」

日本独自のコンセプト、「ソサエティー5・0」について話そう

日立は「ソサエティー5・0」の世界観を体現する企業


 日本版・第4次産業革命を「ソサエティー5・0」として、広く世界に発信するべきだ―。そう考えるようになった背景には、日立製作所が現在、収益の柱と位置づける社会イノベーション事業での経験がある。

 一言で言えば、ITを応用して、より合理的で使いやすい社会インフラを実現すること。ものづくり力やインフラで培ってきた運用・制御などのオペレーション技術をIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)といった最新技術と融合し、インフラの利便性を高め、人々の暮らしの質を高めることを側面支援する。

 象徴的なのは、英国における鉄道プロジェクト。単に車両を納入するのではなく、安定運行に不可欠な保守サービスをセットで提供することで社会の仕組みづくりにも深く関わっている。

 これは「課題先進国」である日本が技術力や産業基盤を生かして世界に貢献する新たなアプローチ。国内外でこの手法を発信し続け、取り組み機運を醸成したい。日立製作所は「ソサエティー5・0」の世界観を体現する企業として、その一翼を担いたい。

 見逃せないのは、ITの使い方そのものが大きく変化している点だ。これまでは、効率化や省力化のために用いられてきたが、これからはより膨大なデータを集め、それを社会の知識や知見に変換することで、新たな価値創造の原動力とする必要がある。

無機質なデータがひとつの「ストーリー」を紡ぎ始める


 ビッグデータを集め、分析し、知識レベルにまで高めていくと、これまで無機質だったデジタルデータが突如、色鮮やかにひとつの「ストーリー」を紡ぎ始める。データアナリティクスの面白さに魅了される人が多いのもうなずける。

 それだけにデータの扱いをめぐる環境整備を急ぎたい。個人情報保護に配慮しつつ、機器やインフラの状態を蓄積したデータ、国や地方自治体が保有する公共データを効率的に利用できるよう政府の取り組みを期待する。

 社会イノベーション事業に取り組んで7年。手応えを感じる一方で、最大の課題は日立内部に宿ることも痛感する。イノベーションは、さまざまな関係者がオープンな議論を重ね、ともに進むべき方向を考え、協業するなかから生まれる。

 日立を「協創」する組織へ変えようと施策を講じてきたが、真の成果はこれからだ。(インフラシステムの主力拠点である)おおみか事業所(日立市大みか町)には「IoT時代だぞ、お前たち主役だぜ」と社外でのオープンな議論を促している。わたし自身にとっても「協創」の原点は「おおみか」にある。後輩たちを励ます声にもつい力がこもる。

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日刊工業新聞2016年7月6日/7日/8日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ドイツの「インダストリー4.0」、米国の「インダストリアル・インターネット」に対抗しうる日本のコンセプト「ソサエティー5.0」。対象が広範囲なだけに、言葉にするとやや抽象的、概念的になりやすい。ただ、具体的な事業に落とし込むのは個々の企業や事業になってくる。ニュースイッチ(日刊工業新聞)ではこれから、随時「ソサエティー5.0」の可能性についてさまざまな角度から伝えていく。初回は民間側からこのコンセプトづくりを主導した日立の中西会長に全体像と、自社の実情を語ってもらった。言葉の端々から、日立が、そして自身がこれを具現化するリーダーになる気概を感じる。

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