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日立製作所取締役会長 中西宏明 「ソサエティー5.0」

日本独自のコンセプト、「ソサエティー5・0」について話そう
*「世界は未来への潮流が見え始めている。これまでで最も大きな変革を起こしたい」
 万人にとって豊かで活力あふれる“未来社会”は、イノベーションによって到来する。私はそう確信している。その実現に挑む日本の姿こそ、世界で存在感を発揮するはずだ。

イノベーションで“課題先進国”を克服


 IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)、ロボットといったイノベーションの波は、企業間のみならず国境を越えたさまざまな連携や競争、ビジネスチャンスを生み出している。日本には“課題先進国”を克服するために蓄積してきた豊富な経験や技術があるはずだ。これを武器に、イノベーションのフロントランナーの役割を果たすことは十分可能だ。

 その戦略を支える日本独自のコンセプトが、ITを核に複数の技術を組み合わせて新たな製品・サービスを生み出す超スマート社会「ソサエティー5・0」だ。「日本版・第4次産業革命」として政府の第5期科学技術基本計画にこの発想を盛り込むことを働きかけた旗振り役のひとりとして、その実現に尽力していきたい。

 第4次産業革命を「インダストリー4・0」という形にして国がプロモートしているのがドイツだが、米国や中国でも同様の動きはみられる。米国はゼネラル・エレクトリック(GE)など民間が主導。中国は国策として推進する。国によって振興の仕方はさまざまだが、外から見たときに分かりやすいアプローチにすることは重要だ。

IoTを生産性向上だけにはとどめない


 その点で、日本の「ソサエティー5・0」は、他国の取り組みとは一線を画す。IoTを産業の生産性向上や製造業の強化にとどめず、少子高齢化やエネルギー問題といった社会課題の解決策と広範にとらえている点に特徴がある。実現したい未来の社会像とはいかなるものか、その姿を形づくることから始め、イノベーションによって課題を解決するという考え方である。

 この半年余り、さまざまな機会をとらえ、「ソサエティー5・0」の意義を世界に発信してきた。欧米各国は、一様に関心をもって日本の提案を受け止めていると実感できた。4月にはG7(先進7カ国)の経済界のトップが都内で一堂に会したが、その後も「詳しく聞かせてくれ」といったメールが後を絶たない。

 日本人はとかく、欧米諸国を追随するスタンスで物事をとらえる傾向があるが、こと社会イノベーションに関しては、日本は世界を主導するアドバンテージがある。もっと自信を持っていい。

 日本が進むべき道はこれだと確信を持つに至った背景には、日立製作所で取り組んできた社会イノベーション事業がある。その経験を振り返りたい。

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日刊工業新聞2016年7月6日/7日/8日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
ドイツの「インダストリー4.0」、米国の「インダストリアル・インターネット」に対抗しうる日本のコンセプト「ソサエティー5.0」。対象が広範囲なだけに、言葉にするとやや抽象的、概念的になりやすい。ただ、具体的な事業に落とし込むのは個々の企業や事業になってくる。ニュースイッチ(日刊工業新聞)ではこれから、随時「ソサエティー5.0」の可能性についてさまざまな角度から伝えていく。初回は民間側からこのコンセプトづくりを主導した日立の中西会長に全体像と、自社の実情を語ってもらった。言葉の端々から、日立が、そして自身がこれを具現化するリーダーになる気概を感じる。

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