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女性役員の登用加速…プライム上場16.4%達成、今後の課題は?

女性役員の登用加速…プライム上場16.4%達成、今後の課題は?

企業は女性登用などで多様性を向上し、競争力の強化につなげる必要がある(イメージ)

社内人材の育成、課題に

上場企業で女性役員の登用が進みつつある。日本総合研究所がまとめた「取締役会のジェンダーバランス調査(2024年度版)」によると、東証プライム市場の上場企業で役員に占める女性の比率は前年度比2・8ポイント増の16・4%に達した。このペースで推移すれば、政府目標の「30年までに女性役員比率30%以上」の29年度達成も視野に入る。だが女性役員の大半は社外から招いた人材で占められており、社内人材の育成が課題となる。(編集委員・川瀬治)

政府は23年6月、東証プライム上場企業を対象に30年までに女性役員の比率を30%以上とする目標を「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針)」に盛り込んだ。内閣府によると、12―22年の10年で上場企業の女性の役員数は5・8倍に増加したが、役員に占める女性の割合は9・1%(22年7月末時点)にとどまり、欧米と比べて女性役員の登用が遅れていた。

※自社作成

30%以上という目標の設定によって女性役員の積極的な登用を促進し、取締役会の多様性向上を進める狙いがある。企業価値向上や日本の産業競争力強化、イノベーションの創出につながる効果が見込める。

政府は目標達成に向け、企業に数値目標や行動計画策定を促してきたほか、女性の仕事と家事、育児などの両立支援に取り組んできた。さらに25年までに女性役員の比率19%、女性役員を登用していない企業をゼロにするといった中間目標を加えた。こうした政府の施策が奏功し、政府目標の達成は見えてきたようにも映る。

とはいえ、女性役員の大半は社外役員で占めているのが実情だ。日本総研の調査によると、上場企業3231社(東証プライム、東証スタンダード市場)における役員3万3452人のうち、女性役員は4350人と、役員に占める女性比率は13・0%。だがそのうち社内役員は615人に過ぎず、社外役員は3735人だった。

政府目標の対象である東証プライム上場企業でみると、1637社の役員1万8472人のうち、女性役員は3037人と、役員に占める女性比率は16・4%となった。女性役員のうち社内役員は334人、社外役員は2703人だった。上場企業で女性役員は順調に増加しているものの、社内から抜てきされた女性役員は依然として少ないのが現状と言える。

また、女性の社外役員の職業背景を見ると、学者・大学関係の構成比が男性の2・6倍程度、弁護士の構成比が同2倍程度となった。能力の高さが認められている職業からの任用が多いようだ。

厚生労働省による「23年度雇用均等基本調査」の結果からも女性役員を取り巻く課題が浮かび上がる。管理職などに占める女性の割合は課長相当職以上(役員を含む)で12・7%。社内役員候補である部長相当職で7・9%、課長相当職では12・0%に過ぎない。日本総研の調査結果も勘案すると、キャリア形成に時間がかかる社内の人材を女性役員として登用するよりも、外部から専門性の高い人材を招聘(しょうへい)して女性役員に据えている状況がうかがえる。

※自社作成

役員の指名・報酬、取締役会の構造改革に関する研究やコンサルティングに従事する日本総研の綾高徳シニアマネジャーは「取締役会の社内外比率と社外役員数をセットで検討することが大事だ」と指摘する。30年までに女性役員比率30%以上という政府目標を人数に換算して考えると、例えば7人の取締役会でも10人の取締役会でも女性役員が3人いれば目標を達成できる。役員数全体は従来と同じままにし、社外役員比率を上げることで女性比率を高める方法が考えられるという。

ただ、社外役員における女性役員の比率が高まることで、取締役会では「社内役員は男性」「社外役員は女性」といった対立構造が生じる可能性もある。日本総研の綾氏は「社外役員における多様性が損なわれてしまう可能性がある」と指摘。その上で「日本企業は役員に誰を指名するかという論点に加え、機関として適切に機能する取締役会の組成を多様な観点から行うべきだ」と提言する。

女性役員比率30%を達成しても、取締役会の機能が高まらなければ達成の意義は薄れる。企業は社内人材の育成をはじめとする課題への対応が急務となる。

日刊工業新聞 2024年12月26日

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