ANAのプロペラ機を支える、部品故障の予知整備
全日本空輸(ANA)の整備分野のデジタル変革(DX)の背景には、昨今の人手不足対策もあるが「『飛行機を止めない』というのが元々のスタートだ」と、整備センター技術部技術企画チームの村田博明リーダーは話す。機体トラブルによる停止は少ないながらもあり、1機が止まると後続の便にも遅れなどの影響が出る。そこで力を入れているのが「予知整備」だ。
予知整備とは、部品の稼働データなどから故障の予兆を見つけ、壊れる前に計画的に部品を交換する取り組みだ。国内線向けの小型プロペラ機のDHC―8―400型機では、約5年の準備期間を経て2023年に予兆検知技術を実装した。
着目したのは、航空機の油圧システムを動かすエンジン駆動ポンプだ。壊れやすい部品だという。壊れる予兆を見つけるため、ポンプを駆動させるエンジンの回転数や油圧ポンプから吐出されるシステムの圧力のデータを機械学習した。「劣化すると圧力が上がり方が変わる」(同)。この特徴が見つかるとアラートで知らせる仕組みにした。
足元でエンジン駆動ポンプが原因の不具合は減ってきており、成果が見えてきた。
多くのセンサーが搭載されている新型機と違い、同機はセンサーが少ない。数少ないデータを使って予知整備ができたのは重要な前進だ。「油圧や空圧といった機械的な部品は特徴をつかみやすい」(村田リーダー)として、他の部品でも取り組みを進める。
ただ、機械学習などの知見を持ち予知整備に取り組める社内の人材は限られる。年に2人程度のペースで育成しながら対象を広げる。「予兆の見つけやすさは当たり外れがあり、学習に使えるデータが少ない部品もある。やれるものをひたすらやっていく」(同)。
自社の取り組みに加え、米ボーイングが主催する最新ツールを使って修復や整備点検の効率化を目指す取り組み「PMET」にも参画。機体の鼻先に内蔵された気象用レーダーの異常や空調システムの空気もれを超音波で検知する技術の開発などに取り組む。
前者の技術は検証中で、人の耳では聞き取れない摩耗した構成部品(ギア)が発する音を拾い、機体のカバーを外さずに検査するのがポイント。オーバーホール回数の削減が期待できる。後者は実装され、1年間で整備士1人分の働く時間を浮かせられるほどの効率化効果が出てきた。
データやデジタル技術が整備の現場を変えていく。(梶原洵子が担当しました)
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