地銀・グループ21社の通期見通し…上方修正相次ぐも、くすぶる懸念
金利上昇や企業の旺盛な資金需要を追い風に、地銀の業績が堅調に推移している。主要地銀・グループ21社の2025年3月期の当期利益は19社が増益を見込む。日銀の利上げによる金利上昇を受け、貸出金利息、有価証券利息配当金などが伸びる見通し。日銀のマイナス金利政策下で強化してきた手数料ビジネスによる役務取引等利益も増加する。一方で、企業の倒産件数は増勢をたどっており、信用コストが増加する懸念がくすぶっている。
主要地銀・グループ21社の4―9月期における実質業務純益は16社が増益、1社が黒字転換だった。中間決算発表では25年3月期業績予想を上方修正する地銀が相次いだ。背景の一つにあるのが、日銀の利上げを受けた金利上昇による利ざやの改善だ。
日銀は7月に開いた金融政策決定会合で、政策金利を0・25%程度に引き上げることを決定。これを受けて地銀各行は、変動型住宅ローンや企業向け短期融資に関する金利の指標となる短期プライムレートを0・15ポイント引き上げた。今後、徐々に貸出金利が上昇し、銀行の利ざやが改善に向かう見通しだ。
一方で融資先の中小企業の経営環境は物価高や人手不足、円安などで厳しさを増している。帝国データバンクの調査によると24年の年間倒産件数は「11年ぶりに1万件台も視野に入る」(同社)水準で推移する。
貸出金利の上昇は融資を受ける企業にとって重荷となる。それだけに全国地方銀行協会の秋野哲也会長(常陽銀行頭取)は「金利上昇に耐えられない企業の支援を今まで以上にやっていく必要がある」との認識を示す。
「金利のある世界」に回帰し、従来の預貸ビジネスが再び地銀の収益基盤となっているが、当面は企業の倒産増加が業績の下押し要因となりそうだ。
東日本/金利引き上げ影響軽微
コンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)は25年3月期業績予想を上方修正し、増配する。片岡達也社長は「金利環境変化に加え、ソリューション営業強化による貸し出しと役務取引利益の増加が見込める」とする。24年9月末の貸出金残高(傘下3行の合計)は法人向けは微増、個人向けも住宅ローンを中心に堅調で「金利引き上げの大きな影響は出ていない」とする。千葉銀行は25年3月期の当期利益予想を上方修正し、3期連続過去最高を見込む。米本努頭取は与信関係費用の増加について「小規模のみならず中堅・中小まで資金繰り悪化が広がった」としつつも「与信関係費用比率は想定の範囲内で問題ない水準」と強調する。
埼玉りそな銀行は25年3月期の実質業務純益と当期利益の見通しを上方修正した。「上期は2期連続増収増益で当期利益も計画を上回った」(福岡聡社長)。七十七銀行の25年3月期は経常利益、純利益を上方修正した。「金利上昇は長い目で見れば貸し出し面で(利益に)プラス」(小林英文頭取)とみる。
東京きらぼしフィナンシャルグループ(FG)の24年4―9月期は当期利益が減益。「貸出金利息の増加が預金利息の増加を上回ったが、前年同期の関連会社の不動産売却による配当金の剥落が響いた」(渡辺寿信社長)。
関西・中四国/店舗出店、縮小から転換
関西・中四国の地銀も25年3月期に好調な業績を見込む。関西みらい銀行は当期利益と実質業務純益ともに過去最高を予想。西山和宏社長は「金利引き上げ経験がある行員は少ないが、丁寧な説明で顧客の理解を得られた」という。
京都フィナンシャルグループ(FG)は当期利益を20億円上方修正し、過去最高益を見込む。土井伸宏社長は「マイナス金利下でも店舗網を維持した。預金を集める上で優位性がある」と今後に自信を見せた。
池田泉州ホールディングス(HD)は10月の上方修正を維持し、増収増益を見込む。鵜川淳社長は「競争が激しくなるが、戦略的にしっかりやればチャンスでもある環境」と考える。
ちゅうぎんフィナンシャルグループ(FG)は5期連続の増益見通し。加藤貞則社長は「成長性のある場所に(新たに)店舗を構える」構想で縮小からの転換を示した。
一方で円安が今後の懸念材料となる。円安に関しては「二極化が進み個々の企業に応じた対応が必要」(関西みらい銀)、「輸入企業は物価高や原材料高など大変厳しく、専門チームが相談に対応している」(ちゅうぎんFG)などの声があった。
中部/好業績も目先は不透明
十六フィナンシャルグループ(FG)は業績が好調だったが、先行きを「読めない」(池田直樹社長)とし25年3月期業績予想は期初予想を据え置いた。金利上昇について「貸出金利は融資先の了解を得て改定する。預金金利が即上がるのに対し、貸出金利が上がるにはタイムラグがあり、短期的にはネガティブに作用する」(同)とみる。ほくほくフィナンシャルグループ(FG)も25年3月期業績予想を据え置いた。
しずおかフィナンシャルグループ(FG)は貸出金利息の増加などを受け、25年3月期業績予想を上方修正した。当期利益は期初予想比60億円増の660億円を見込む。
九州/預金獲得増に注力
ふくおかフィナンシャルグループ(FG)は、25年3月期業績予想の当期利益を期初予想比35億円増の720億円に上方修正した。貸出金利息の伸びなどで、24年4―9月期に続きコア業務純益の増加を期待する。五島久社長は「粘着性のある預金獲得が経営における大きなイシュー」とする。
西日本フィナンシャルホールディングス(FH)は増収増益の通期予想を据え置く。24年4―9月期は貸出金利息の増加などにより資金利益が増え、当期利益は計画を上回った。村上英之社長は「金利がつきはじめると世の中の動きが変わる。基盤的な預金の増加に力を入れる」。信用コストは期初の保守的な見積もりを維持する。
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