次世代通信技術「AIーRAN」の処理高速化、ソフトバンクが開発に乗り出した新製品群の全容
ソフトバンクは米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)を用いて、人工知能(AI)と無線アクセス網(RAN)が融合した次世代通信技術「AI―RAN」のデータ処理を大幅に高速化する製品群「AITRAS(アイトラス)」の開発に乗り出した。自社の通信網に導入するほか、2026年以降に国内外の通信事業者への展開を目指すと13日に発表した。データ流通量の急増に対応した処理の高度化が求められる次世代通信網の構築につなげる。
エヌビディアの「GH200グレース・ホッパー・スーパーチップ」は、テラバイト級(テラは1兆)のデータを処理するアプリケーションに対し従来比で最大10倍の性能を示す。このGPUを搭載した仮想化基盤上で仮想化基地局(vRAN)やAIアプリを提供する。
アイトラスは信号の並列処理やタスク(作業)起動タイミングの最適化などにより商用網に必要な安定性と高性能を実現する。AIとRANを同一の仮想化基盤上で動作させるオーケストレーター(調整自動化)機能も開発。同機能によりAIとRANで使う各種アプリの特性を踏まえてコンピューティング資源を効率的に割り振ることでシステム運用を効率化し消費電力も削減できる。仮想化基盤には米レッドハットのコンテナ型クラウド基盤「オープンシフト」を用いる。
アイトラスには生成AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)開発用の機能群で構成したソフトウエア基盤「エヌビディアAIエンタープライズ」を実装する。顧客企業自身でAIアプリを開発・展開できる。25年以降にアイトラスの実用性や効果を実証するキットを通信事業者向けに提供する。
携帯通信業界では次世代通信網の運用効率化に向け、携帯通信網を構成する無線基地局の機能を機器からソフトウエアに置き換える仮想化技術を用いた仮想化基地局の採用が本格化している。
ソフトバンクはAIを駆使してRANを高機能・高品質化するAI―RANの屋外実証環境を慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC、神奈川県藤沢市)に構築した。電波干渉が生じやすい都市部を想定し、エヌビディア製GPUを搭載したサーバーに、基地局となる4・9ギガヘルツ(ギガは10億)帯域のアンテナ20基を光回線で結んで配置。オーケストレーターが、負荷に応じてGPUサーバーの機能を配分して効率運用する。
実証実験として、SFC構内で道路状況に柔軟に対処するAI自動運転などを公開。宮川潤一ソフトバンク社長は「ロボットや自動運転などが普及した“AI共存社会”に不可欠な存在になる」と期待を述べた。
富士通は仮想化基地局用ソフトウエアや無線機を提供。富士通の拠点がある米ダラスに共同でAI―RANの検証ラボを設立する。