エヌビディアの独壇場…「AI半導体」機能で差別化、PFNなど挑む
人工知能(AI)モデルを学習、推論するのに必要な半導体。現在そうした用途の半導体は米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)の独壇場だ。一方、AIの活用が広がる中、独自にAI半導体を開発する企業が増えている。エヌビディアとは違う競争軸を打ち出し、AI市場の拡大を捉える。(小林健人)
現在AI学習で使われるGPUなどは、汎用性を担保した上で計算能力や電力効率を高める。ただ、GPUはAI用途に最適化されていない。そのため、大規模言語モデル(LLM)の登場によりAIモデルが大型化するのに伴いユーザーが求める計算能力は高まり、消費電力が増加傾向にあるが、GPUの消費電力の効率化が追いついていないのが現状だ。元々、半導体はエネルギー多消費産業と言われているが、このままAI開発が進めばさらに多くの電力を使用するという課題を抱えている。
そこでプリファードネットワークス(PFN、東京都千代田区)はソフトウエアの開発力を生かし、深層学習に最適化した半導体を開発する。ネットワーク制御などの機能をソフトで置き換え、従来に比べ多くの演算機能を搭載した。用途を深層学習に特化することで消費電力を抑えた。
24年中には、第2世代の自社設計半導体を組み込んだサーバーをクラウドサービスとして他社に提供する方針だ。自社で開発するAIソフトもサーバー上で動かせるようにし、「ソフトウエア開発キット(SDK)も公開していく」(小倉崇浩MN―Core事業経営企画室担当VP)。
また同社は、インターネットイニシアティブ(IIJ)や北陸先端科学技術大学院大学と次世代半導体を共同開発しており、26年以降にも製品化する。製造は韓国のサムスン電子が25年にも始める2ナノメートル(ナノは10億分の1)のファウンドリーサービスを活用。PFNの牧野淳一郎VPコンピュータアーキテクチャー担当最高技術責任者(CTO)は「同世代のGPUより電力当たりの性能と価格面で上回りたい」と意気込む。
エッジAI向けの半導体を手がけるエッジコーティックス(東京都中央区)も電力効率を重視する。端末側でのAI処理に特化した半導体を開発。同社もソフトを中心にした設計を重視する。端末側でAIを動かすのに必要な機能を備えたソフトと、それに最適化した半導体を手がける。24年からは数十億規模のAIモデルに対応した「SAKURA2」の量産を始める。サキャシンガ・ダスグプタ最高経営責任者(CEO)は「引き合いは強い」と話す。
AIの市場は今後も拡大が予想される。電子情報技術産業協会(JEITA)によれば、生成AI市場の世界需要額は30年には2110億ドル(約30兆円)に達し、23年の約20倍になるという。市場拡大に合わせ、計算能力と消費電力のバランスを探る動きも出てきそうだ。