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事故から13年以上…東電、福島原発で燃料デブリ採取に成功

事故から13年以上…東電、福島原発で燃料デブリ採取に成功

把持した燃料デブリを運搬用ボックスに回収した(東京電力提供)

東京電力は7日、福島第一原子力発電所2号機の燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の試験的取り出しに成功したと発表した。炉心の下からデブリのかけらを採取して輸送用容器に収納した。取り出したかけらは数グラム。2011年3月の事故から13年以上の時間を要した。

釣りざお式アームを伸ばして10月30日にかけらをつまんだ。アームを縮め、かけらの線量率を測るなどして11月7日に建屋内運搬容器にかけらを収納した。今後、日本原子力研究開発機構などで分析を進める。デブリの組成などから炉心溶融時の状況を推定する。

日刊工業新聞2024年11月8日

燃料デブリ試験的取り出し成功も、東電に求められる理解促す説明

日刊工業新聞2024年11月7日

東京電力福島第一原子力発電所で中断していた燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の試験的取り出しが再開し、サンプル採取に成功した。数日かけて回収し、分析に回す。9月17日にカメラの不具合で中断してから再開まで40日以上を要しており、不具合の原因解明には至っていない。この間、状況の不透明さから東電の体質を問う声も上がった。原因究明にかかる工数や意思決定の背景を説明していく必要がある。(小寺貴之)

「まだ作業は完了しておらず、気は緩められないが、デブリ取り出しや事故調査の手がかりを与えてくれるだろう」。東電の福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表はこう期待を語る。2号機の格納容器底部で数ミリメートルのかけらをつまむことに成功した。展開している伸縮アームを縮めて格納容器の外で線量率を計測し、24ミリシーベルト以下であれば、密閉容器に入れて運び出す。

この作業をエンクロージャーと呼ぶコンテナサイズの密閉空間で行う。放射性ダストの除去や気圧調整などの工程があるため、原発の構外に運び出せる状況になるまで数日かかる。かけらが24ミリシーベルト以上であれば再度採取に挑戦する。

サンプルは日本原子力研究開発機構などで構成元素や結晶構造などを分析して、燃料デブリの生成過程を推定する。メルトダウンでどんな反応が起きたかを推定できれば、デブリの本格的取り出しに向けた知見になる。

課題はトラブルの度に管理意識や組織体質の改善を求められる現状だ。精神論はヒューマンエラーの根本的な解決策にはならず、形式的な対策を繰り返していると管理が形骸化するリスクもある。

本格的な取り出しに向け、今後もトラブルは頻発すると想定される。今回は人為的要因で2週間、カメラの不具合では40日以上、解決までに時間を要した。小野代表は「普通の現場なら1、2時間で原因が分かることも、福島第一では何日もかかってしまう」と説明する。モックアップで事前に訓練は重ねているものの、高線量環境での不具合の洗い出しや解消は容易でなく、現場で初めて表れる不具合に対応していかねばならない。

重要なのは、失敗が起きる前提でリスクがコントロールされているかどうかだ。東電は常々「安全が最優先」と説明してきたが、プロジェクトマネジメントやリスク管理の基本的な考え方も共有しなければ社会から納得が得られない可能性がある。

例えば今回はカメラの不具合の原因究明よりも採取実行を優先した。現場での原因究明には限界があり、故障したカメラは回収して調べる。これらの工数や優先順位、意思決定の背景を説明し、合理的であったかを示す必要がある。現在は先行きの不透明さと相まって不信が募りやすい状況だ。

小野代表は「今回を踏まえ、リスクコミュニケーションのあり方を考え直す」という。時間がかかっても共有を図れば、廃炉の現場への理解や廃炉を支える社会の形成につながると期待される。

小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
ようやくデブリのサンプル回収に成功しました。小さな一歩ですが前には進んでいます。中断し長く停滞はしたものの、取り返せない失敗はなく、リスクはコントロールされていたと思います。不具合や中断を軽視するのはもってのほかですが、このくらいのトラブルは1Fでは残念ながら結構起きています。近々の会見でも2号機使用済燃料プール関係の配管を切ってみたら内側は大量の堆積物で覆われていました。堆積物で腐食が生じる可能性があり、調査を続けることになっています。この事案は漏洩が見つかったから調べてみたものの、他の配管は大丈夫なのか。他の配管って膨大な量があるけど、どこから点検するのか。課題は山積みです。記者会見はずっと紛糾していて「採取したかけらは密閉容器に入れるのか、それはビニール袋に包んで持ち上げるのか、ビニール袋ごと構外輸送容器に入れるのか」などと作業を細かく質問され、口頭で答えています。記者は作業者の身になって作業をイメージして、そこにリスクがないか確認しています。一人の質問に答えるのに15分くらいかかります。会見は3時間くらいかかります。現場ではやって見せて、やらせてみて作業や確認項目を作っているはずです。その動画があれば簡単なのですが、たくさんある工程や作業の中で、どの作業がどの解像度で問われるかわかりません。そして会見は口頭でのやりとりなので、記者が正しく理解できたか東電が確認する術はないように思います。まずは、どうやってリスクに優先順位を付け、コンロトールしているか、プロジェクトマネジメントの基本を勉強する機会を設けた方がいいように思います。福島の記者は作業員さんを直接取材するので肌感覚としてもわかるのだと思います。東京の記者は距離があることもあり、教えないとわかりません。大手の記者には15分かけて対応して、フリーランスの記者には数分でもう質問を終えてくれと促す。これも記者側がフラストレーションを溜める要因だと思います。そうやって発信された記事が現場に精神論として届くと、最悪は現場が情報を出さなくなり、東電が社員を現場に何人配置しても詳細を把握できなくなりかねません。今回、人為的要因と機材の不具合の両方の事例ができたので設計から訓練、トラブルシューティング、リスクコミュニケーションまで含めて整理して教材になればと思います。

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