【座談会】原発方針転換、革新炉は本当に進むのか?
日本の原子力政策が大きな転換期を迎えた。経済産業省は11月28日、今後の原子力政策の方向性案を示した。「安全性を高め革新炉の建設を進める」とし、東日本大震災以降、新増設や建て替えを「想定していない」としてきた政策を転換した。また、現行法で最長60年と定めた運転期間を延長できるようにすることも明記した。
エネルギー危機と脱炭素を背景に進んだ原子力政策。今回の方向性案が持つ意味は何か、実効性はあるのか、次世代の革新炉開発は進むのか。今後の展望についてエネルギー政策に詳しい、国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授の橘川武郎氏と日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリストの瀧口信一郎氏。日本の原発製造を担ってきた東芝エネルギーシステムズから取締役兼チーフニュークリアオフィサーの薄井秀和氏。そして未来のエネルギーと言われる核融合の研究開発に取り組む、京都フュージョニアリング代表取締役の長尾昂氏の4名に語ってもらった。
革新炉建設、廃炉が先行
――今回の方向性案についてどのように考えますか。
橘川武郎(国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授):1951年生まれ。現在は国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授、東京大学名誉教授、一橋大学名誉教授。専攻は日本経営史、エネルギー産業論。経営史学会会長や経済産業省・資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会委員などを歴任。著書に『エネルギー・シフト』『災後日本の電力業』など。
橘川氏:はっきり言って失望だ。岸田文雄首相が8月のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議後の発言から、革新炉の開発・建設を進めることに期待していた。
今回の問題点は既存原発の延長が先行したことだ。電力会社からすれば、既存原発の運転期間を延長できるのであれば、多額の投資をして革新炉を建設するインセンティブはない。革新炉の建設を進めたいのであれば、順番が違うのではないか。
建て替えの条件から考えれば、関西電力の美浜原発(福井県)が候補地ではないか。1、2号機の廃炉は決まっており用地もある。方向性案に「美浜原発」の文字が入るくらい思い切った判断をしてもらいたかった。
瀧口信一郎(日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリスト):1969年生まれ。93年京都大学人間環境学研究科修了。コンサルティング会社、不動産投資ファンド、エネルギー関連アドバイザリー会社を経て、2009年日本総合研究所に入社。専門はエネルギー政策、エネルギー事業戦略、分散型エネルギーシステム。
瀧口氏:原発の利用をいつまで続けるのかという議論はあるが、技術自体をつないでいくことは重要だ。そういった意味で一定の方向が出たことで、今後は技術のつなぎ方について議論ができると思う。
薄井秀和(東芝エネルギーシステムズ取締役兼チーフニュークリアオフィサー):1964年生まれ。87年早稲田大学理工学部機械工学科卒業。同年株式会社東芝に入社。2013年原子力システム設計部長、17年軽水炉技師長、21年東芝エネルギーシステムズ株式会社取締役就任。入社以来、原子力発電所の原子炉系システム設計や機器設計に携わる。
薄井氏:8月の岸田首相の発言前まで、原発新設の議論はそもそもなかった。橘川先生の指摘通り、トーンダウンしたという側面はあるが、長期的には追い風だ。新設に関しては安全性を高め、当社としては実現したい。既存原発の運転を延長するとしても、日本のエネルギー比率などを見極めた上で、新設は必要だという立場だ。そのため備えや開発は続ける。
電力需要の減少を想定せよ!
――原発政策の方針において、第6次エネルギー基本計画が一つの柱です。同計画では2030年度の電力構成で20~22%を原発で補うことを想定しています。
橘川氏:今からどんなに新設をしても30年度に20~22%には届かない。新設が関わってくるのは、早くて40年代だろう。既存の原発に加え、審査中のものを含めて動かさないと約20%には届かない。どんなに頑張っても30年度に15%がいいところだろう。
瀧口氏:電力構成を考える際に需要の議論は避けられない。我々が18年に出したレポートでは50年の電力需要が7286億キロワット時と予想した。これを出した際は「極端ではないか」という意見もあったが、第6次エネルギー基本計画では30年度に8640億キロワット時程度の需要が想定されている。我々のレポートでは電気自動車(EV)の急速な普及を想定していない。EVが70%程度まで普及し、水素製造のための需要を考慮しなければ、電力需要に送配電ロスや電力会社の自家消費を足した場合でも約9000億キロワット時になる。そういった意味でアグレッシブに需要が減ってくる前提に立つ必要がある。実際、第6次エネルギー基本計画でも電力需要を引き下げている。この前提に立って原発の議論を進めるべきだ。
橘川氏:30年度は電力需要が下がる前提だが、資源エネルギー庁は50年度に電力需要が上がる予測をしている。しかし、これからは経済成長と電力消費がズレてくる。次のエネルギー基本計画ではそれが問題になってくるのではないか。
第6次エネルギー基本計画を策定した際に、50年度の電力構成を原子力と二酸化炭素(CO2)回収・有効利用・貯留(CCUS)火力発電を合わせて、30%から40%と見積もっている。ただ内訳としては原発が10%程度で、電力需要が上がっても原発の割合を増やすのは厳しいかもしれない。
――目下の電力不足という短期視点と将来の電力需要低下という長期視点が不可欠です。原発の新設には時間がかかります。
薄井氏:長期的な予測は確かに難しい。ただCO2を出さない電源として、新設は必要だ。原発の建設は計画通り進んで、10年程度かかる。革新炉も研究開発が順調に進んで実現するのは30年代だ。そのころに電力需要がどうなっているかは分からないが、革新炉の活用を進める上でも新設の議論は必要だ。
瀧口氏:電力需要は議論のベースになる。一方、格納容器は照射脆化などで劣化する。「何か起こった時の対応ができるのか」が問われている。事故などが起こるリスクを限りなく減らせるという観点で新型炉を新設していくべきだ。
橘川氏:全くその通りだ。S+3E(安全性、安定供給、経済性、環境)が基本だというが、安全性と言い切ってしまうのは問題がある。現在の知見で危険性を最小限にして、規制基準の範囲で動かしていく。こうした考えに立てば、新しい原子炉が良いに決まっている。これこそ革新炉が最も価値がある理由だ。