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東電、福島原発デブリ試験取り出し中断…明らかな現実

東電、福島原発デブリ試験取り出し中断…明らかな現実

デブリにアクセスする取り出し装置。右上がグリッパー(東電提供)

高線量リスク抽出困難、多くの失敗経験が重要に

東京電力福島第一原子力発電所の燃料デブリの試験的取り出しが中断し、原因解明に時間を要している。取り出し装置のカメラが映らなくなった原因として、カメラに放射線を長時間当てたため過電流が生じた可能性が挙がっている。東電は低線量環境に装置を戻して様子を見る計画だ。明らかなのは、高線量下での不具合の洗い出しが不十分だったという現実だ。本格的な取り出しに向けて、多くの失敗を重ねる必要がある。(小寺貴之)

「こんな事象が起こるという知見はなかった。リスクを事前に挙げるのは困難だった」―。原因説明の会見で、東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は弁明に追われた。リスク抽出が甘かったのではないかと、2時間半にわたり追及された。8月22日に発覚した部材の配置ミス、9月17日に発生したカメラ映像の不良と続いたことを受け、毎週の定例会見が紛糾している。

推定原因に挙げられた電離作用はよく知られた現象だ。放射線が物質に当たり電子と正孔が生じる。半導体を劣化させるため、高線量カメラには耐久性の高い材料を使っている。

ただ、蓄積した電荷で過電流が生じて回路を壊す可能性に対応できていなかった。取り出し装置は何日も高線量下に置かれたため、大量の電荷が蓄積したと考えられる。

東電は低線量環境に装置を戻して放電し、カメラが回復するか試す。回復しない場合はカメラを交換する。装置の投入口が使えなくなる訳ではなく、リカバリーは可能だ。

東電は一つのミスや不具合の解決に2週間ほどかけている。これは同じミスを繰り返さないためだ。事前にモックアップで訓練して不具合を洗い出しても、極限環境では潰しきれなかった不具合が必ず出てくる。

現在は試験的な取り出しに着手した段階だ。本格的な取り出しが始まり、運用が安定するまで大量の不具合をつぶしていくことになる。

社会としては制御できている失敗は認め、東電により迅速に大量の失敗を経験させる場が必要になる。
日刊工業新聞 2024年10月01日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
H3ロケット試験機の打ち上げ失敗の際と同じように会見が紛糾しています。こちらは科学ファンが擁護してくれるわけでもなく、一ヶ月以上サンドバッグになっています。失敗には許容される失敗があり、今回の取り出し中断も状況はコントロールされてはいます。本格的取り出しに向けて、まだまだ不具合は出てくるし、一つ一つ潰していく必要があります。たぶん10年くらい続くと思います。モックアップで高線量環境を再現できればいいのですが、訓練で被曝するなんて到底許容されません。将来、本格的取り出しシステムを設計する際には、新しいデバイスやシステムを試す遠隔のテスト環境も一緒に作り込めるといいと思います。1Fの高線量環境で不具合を洗い出してから合格したものを装置に組み込む。むしろ本格的取り出しシステムの構築よりも、検証環境の構築を優先すべきかもしれません。今回、最も技術的に難しかったテレスコ自体は生きています。デブリが取り出せたら、または取り出せなくても、テレスコの長尺片持ち構造が生きているうちに、内部にいろんなセンサーを届けて環境を測っておくのは、再発防止策の精度を高めることになると思います。テレスコを使い潰すつもりでデバイス類の耐久試験をしてもいいのかもしれません。いまのサンドバッグ状態は人間の心の耐久試験をしているようです。これが10年くらい続くと思うと恐ろしいです。

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