ニュースイッチ

建設現場のDX後押し…KDDI、衛星活用でトンネルに通信エリア

建設現場のDX後押し…KDDI、衛星活用でトンネルに通信エリア

渡島トンネル坑内に設置した4GLTEアンテナ

KDDIが、米スペースXの低軌道衛星通信「スターリンク」を用いて自社の携帯通信ブランド「au」の通信エリアを北海道新幹線用の渡島トンネル(北海道八雲町)建設現場に構築した。従来のWi―Fi(ワイファイ)環境に比べ、トンネル坑内の作業箇所全域で携帯電話の通信品質が改善。ロボットが撮影した現場データを即時転送する実証にも成功した。山間部や島しょ部にある通信不感地域の建設現場での採用につなげ、建設業界のデジタル変革(DX)を後押しする。(編集委員・水嶋真人)

「広い通信エリアで119番などの緊急通報を含めた電話が可能になった。故障や保守負担も少なく、従来に比べ安価で設置できた」。渡島トンネル上二股工区の建設を担う清水建設の大坪宏行北海道支店土木部工事長は、スターリンクを用いてau通信エリアを構築するKDDIの企業向けサービス「サテライト・モバイル・リンク」導入の利点をこう説明する。

従来、携帯電波が届かない山間部に通信環境を構築するには、最寄りの光回線から光ケーブルを延伸し、ワイファイ機器を設置していた。だが、大型工事機械の遮蔽(しゃへい)影響もありワイファイアンテナ1基当たりの通信エリアは約30メートルと狭い。数キロメートル規模のトンネル全体をカバーしようとすると必要な機器数も増えて保守作業が煩雑化する。「発破作業を行う切羽から約200メートルには破砕石による損傷を防ぐため、通信環境を構築できなかった」(大坪工事長)課題もあった。

上二股工区ではトンネル坑外にスターリンクアンテナを設置し、周辺エリアで第4世代通信(4GLTE)を利用可能にした。同アンテナから光ケーブルを延伸しトンネル坑内に設置したアンテナ3セットと接続。アンテナ1セット当たり直径2キロメートルの4GLTE通信エリアを構築した。

KDDI事業創造本部の今村元紀サービス企画3グループリーダーは「豪雪やトンネル坑内の粉じんの影響を受けずに通信を安定供給できた。遮蔽物があっても切羽の端まで電波を届けられ、普段の生活エリアと遜色ない体感で利用できる」と胸を張る。受信時の最大通信速度は毎秒約220メガビット(メガは100万)。ワイファイ環境に比べて設置機器数も大幅に減らせるため、設置コストも従来比約3分の1に抑えられるという。

こうした通信環境の安定化は、建設現場の遠隔検証も可能にする。高性能センサーを四足歩行ロボットや飛行ロボット(ドローン)に搭載して3次元(3D)点群データを撮影し、清水建設の都内の拠点に伝送する実証を成功させた。

建設業界は物流業界と同様に4月から時間外労働の上限規制が適用された。労働時間減少による工期の遅れや人手不足といった「2024年問題」が課題となっている。建設現場の定期巡回や施工管理の効率化でもスターリンクの活用が進みそうだ。

日刊工業新聞 2024年10月9日

編集部のおすすめ