開業60周年…JR東海の〝屋台骨〟東海道新幹線、競争力強化への技術力を探る
先端技術、自前で開発
東海道新幹線が10月1日に開業60周年を迎える。これまで車両や運用体制の進化を通じてサービスの高度化を進め、経済・社会活動を支える大動脈として役割を果たしてきた。足元では将来の労働力不足といった新たな課題も懸念される中、自動運転技術などの先端技術開発にも自前で取り組み、解決を図る姿勢をみせる。JR東海の“屋台骨”ともいえる東海道新幹線の競争力強化の取り組みを、技術力の側面から探る。(名古屋・狐塚真子)
2023年度時点で1日当たり372本の列車本数、輸送人員は同43万2000人という輸送力を誇る東海道新幹線。同年度のJR東海の収益構造の81%は運輸事業に起因するが、このうち93%は東海道新幹線によるものだ。事業拡大には、安全・安定性の確保を前提に、輸送量の強化が欠かせないが、これには同社の技術開発による貢献も大きい。
例えば92年に導入された300系。航空機に対抗すべく、東京駅と新大阪駅を2時間半で結ぶ最高速度270キロメートル時の走行を可能とした。一方、沿線の半径2500メートルのカーブでは横方向の重力が大きく、実際は乗り心地の観点から速度を落として走行する必要があった。こうした中、07年から運行を開始したN700系では、曲線において車体を1度傾かせる「車体傾斜装置」を搭載。これまで速度制限がかかっていたカーブでも高速で走行でき、所要時間の短縮にもつなげた。
20年から運転するN700Sは、走行時の抵抗を低減した先頭形状を採用。床下の駆動システムには炭化ケイ素(SiC)半導体を活用し、小型・軽量化を図った。26年度から28年度にかけては17編成の追加投入を控える中、一部の編成には従来、点検用車両の「ドクターイエロー」で行っていた検測機能も搭載する予定だ。
電車線(架線)設備の画像解析により、設備異常を検知するほか、画像・点群データから軌道材料のモニタリングも可能になることから、保守作業の省力化が見込める。現在、多頻度での検測に対応できる装置の健全性や、時間帯・季節・天候によって変わるカメラの見え方を考慮し、精度向上に向けた検証を進めているという。
自動運転、28年実用化へ
JR東海は、22年には最新技術の投入で10―15年かけて年800億円のコスト削減を目指す業務改革の推進を打ち出した。背景には将来的な労働力不足への懸念といった環境の変化がある。その対応策の一つとして注目を集めるのが、自動運転技術の開発だ。
同社が導入を目指すのは半自動運転のレベルである「GoA2」。運転士は先頭運転台に乗務するが、運転中の速度や停車はシステムにより制御される。
実用化を目指す上でのポイントは、東海道新幹線の駅間の長さと緻密なダイヤへの対応だ。このほか、速度制限や勾配などの地上条件、天候といった複合的な要素に適切に対応しながらも乗車時の快適性を実現するシステムが必要になるとみられ、21年から本線での試験を重ねている。
乗務員の役割を見直すことで車内の巡回強化といったサービス面だけでなく、加速やブレーキを最適化することで、走行時の省エネルギー性を向上できるといった効果も見込める。28年頃の運転開始を想定し、技術力に磨きをかける。
利用者の需要面でも変化は大きい。コロナ禍を経て働き方が多様化する中、ビジネス環境の充実も施策の一つだ。N700Sではウェブ会議の際などに利用できる個室型のビジネスブースを整備。26年度中には同車両の一部に完全個室タイプの座席の導入を予定する。高付加価値サービスの投入で、一層の収益力強化を実現できるかが注目されている。