高級か節約か消費二極化…おせち商戦スタート、百貨店が絞る知恵
大手百貨店による2025年正月おせちの予約が9月下旬から始まり、商戦が本格化する。コロナ禍でさまざまな消費行動が制限されたことで売り上げを伸ばしたおせち市場は、近年横ばい状態にある。消費の二極化を踏まえ、高級志向と節約志向の両方に対応する品ぞろえが求められ、原材料の高騰が続く中でも一部価格を据え置くなど、各社は工夫を凝らして消費者のニーズに応える。(阿部俊介)
円安で海外旅行のハードルが上がったことや、国内ホテルのインバウンド(訪日外国人)需要による宿泊料金の上昇を背景に、松屋は「人気のホテルおせち」を発売する。東武ホテルや帝国ホテルとタイアップし、和洋中の料理を幅広い世代が楽しめるようにした。外食を控えている客には「〈銀座〉・〈浅草〉の銘店シェフおせち」を取りそろえた。全体の平均価格は3万円弱。中間層向けの商品を中心に価格を据え置くことで、ちょっとしたぜいたく気分を味わえるようにする。
予算内で、より質の高い食材や料理を選択できるのが、高島屋のカスタマイズおせち「よりどり彩りおせち」だ。3年目を迎えた人気商品で、35品のメニューから食べたいものを自由に12品(12マス)、または9品(9マス)を選べる。手頃な1400円(消費税込み)から最高1万800円(同)まで幅広い価格帯をそろえた。
1月に発生した能登半島地震の被災地を支援しようと、各百貨店に地元の食材や高級旅館の料理を取り入れる動きも広がる。大丸松坂屋百貨店は石川県七尾市の日本料理店「一本杉 川嶋」監修の和風おせちを商品化した。店が倒壊し復旧のめどが立たない中で「一人でも多くの人に能登や店の味を届けたい」との思いで実現した。売り上げの一部を復興支援として寄付する予定の百貨店もある。
また12月はクリスマスや歳末セール、正月関連商品の配送で物流の負担が高まることから、百貨店各社は配送の遅延リスクに備えている。24年正月におせち商品の目立った遅配はなかったが、一部の食材宅配サービスで遅配や欠配が発生した。4月からトラック運転手の残業規制が強化されたことで、例年以上の混乱が懸念される。ある百貨店担当者は「物流の管理体制やチェック機能の強化を図るとともに、冷凍商品はさらに管理を徹底する」と説明する。
富士経済によると24年のおせち市場は843億円と、前年比で1・5%縮小した。原材料高騰による価格改定が相次いで、前年に比べてさらに販売価格が上昇し、販売量が落ち込んだためだ。一方で、一部の付加価値が高いおせちの売り上げが伸びており、各社の販売戦略が注目される。