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三菱マテリアル・JX金属…非鉄各社、Eスクラップの再資源化磨く

三菱マテリアル・JX金属…非鉄各社、Eスクラップの再資源化磨く

Eスクラップは集荷、サンプリング・分析、製錬を経て再資源化される(銅の熔錬工程、三菱マテリアル)

非鉄各社が廃電子基板などのEスクラップ(都市鉱山)についてリサイクル体制の強化に動いている。脱炭素社会に向けた自動車の電動化などを背景に銅やレアメタル(希少金属)の需要増加が見込まれる。海外の鉱山開発だけでは十分な資源量の確保は難しく、銅やレアメタルなどを資源循環によって戦略的に確保することが必要だ。各社は再資源化技術の高度化やリサイクル原料の集荷量増加を通じて需要に応えていく。(岡紗由美)

リサイクル原料 処理量(12社合計)

三菱マテリアル オンラインで原料取引

「鉱山から取れる銅鉱石の採掘量には限りがある中、重要な金属資源を確保する役目がある」―。三菱マテリアルの松谷輝之製錬事業部長はこう語る。

同社は直島製錬所(香川県直島町)と小名浜製錬所(福島県いわき市)で銅製錬事業とともにリサイクル事業を推進している。Eスクラップの処理量は年間約16万トンと世界トップクラスの規模を誇り、30年度までに同24万トンに引き上げる目標を掲げる。直島製錬所では独自技術の「三菱連続製銅法」を活用し、Eスクラップの処理拡大を進める。銅の熔練(ようれん)設備の増強を2027年度までに完了させる計画だ。

三菱連続製銅法は他社が採用する一定量をまとめて製造するバッチ式と異なり、連結された3種類の炉で構成する。環境負荷の低下やエネルギー効率が高いことが特徴だ。上流工程の熔錬炉は炉の天井から原料とともに酸素を多く含んだ空気を吹き込み金属が溶けた熔体が強く撹拌されることで原料が速やかに反応し熔解する。これにより、Eスクラップや自動車などのシュレッダーダストから可燃物を除去したスラグメタルの処理がしやすくなる。

Eスクラップには銅などの貴重な金属が含まれている

小名浜製錬所では200億円を投じ前処理設備の建設を進めている。炉の上方からEスクラップなどを投入して処理する反射炉は可燃物を含む原料の処理上限に達している。そのため、Eスクラップに含まれる樹脂などの可燃物を燃やして除去する前処理施設を設置し、28年度の稼働を目指す。

Eスクラップの調達体制強化も進行中だ。同社は現在、Eスクラップを国内から3分の1、海外から3分の2を調達する。特に欧州からの調達を強化するため、18年にオランダに設立したMMメタルリサイクリングをさらに活用する。9月にオランダに設立する三菱マテリアルヨーロッパでも、リサイクル原料集荷営業を含めた欧州での資源循環ビジネスを拡大する方針。またリサイクル原料のオンライン取引システム「MEX」も運用し、Eスクラップ取引の拡大と効率化を目指していく。松谷製錬事業部長は「リサイクル原料比率を高めて環境に優しい事業を目指す」と力を込める。

J X 金 属 メーカー連携 循環モデル

JX金属は持続可能な銅の供給やその進化に向けた施策を示した「サステナブルカッパー・ビジョン」を基に、銅の循環型社会の構築に向けて取り組みを加速している。安田豊常務執行役員は「サプライチェーン(供給網)全体をつなげて循環経済が成り立つ仕組み作りを手伝いたい」と強調する。

グリーンハイブリッド製錬を推進しているJX金属製錬の佐賀関製錬所

同社はこれまで行っていた製錬事業やリサイクル原料の集荷に加え、メーカーや金属リサイクル業者との連携を強化。銅の生産から利用、リサイクルまでの循環をつなげる役割を担おうとしている。

その一環として、非鉄金属の資源循環事業に取り組むJX金属サーキュラーソリューションズ(JXCS、東京都港区)が7月に事業を開始。リサイクル原料の集荷事業をJX金属商事(同新宿区)から引き継ぎ、原料調達から製錬、販売までのワンストップ体制を整えた。

佐賀関製錬所(大分市)ではリサイクル原料比率を40年度に現状の20%前後から50%以上に引き上げる方針を掲げる。中間目標である28年度までに25%にするために主に三つの取り組みを進める。まず製錬リサイクル技術の高度化だ。同製錬所では銅精鉱とリサイクル原料を同じ設備内で製錬し、銅精鉱に含まれる硫黄や鉄の酸化熱により溶解する「グリーンハイブリッド製錬」を推進している。リサイクル原料の前処理技術を強化する。

二つ目に原料の集荷量を増やす。JXCSが金属リサイクル業者と連携を進めることで、これまで製錬所で取り扱いにくかった中低品位品まで集荷対象を広げたい考えだ。三つ目にリサイクル原料の受け入れ能力増強を検討する。

さらにメーカーとの連携も強化する。24年度に原料の投入比率に応じて製品の一部に特性を割り当てるマスバランス方式を利用したリサイクル100%電気銅を発売する。安田常務執行役員は「複数のメーカーと協力しながら、使用済み製品から銅などの有価金属を回収・再利用する循環モデルの実現を目指したい」と語る。

政府 輸出入電子化 東南アに照準

政府も資源循環体制の構築を後押しする。金属の再利用に取り組む民間企業を支援することなどにより30年までにEスクラップの処理量を20年比5割増の50万トンに引き上げる。

一方、懸念されるのがEスクラップの確保だ。環境対策を行わず不適切に処理される状況を受け、25年から国際的な廃棄物の取引を規制するバーゼル条約が改正され、Eスクラップの輸出入手続きが複雑になる。同条約に関して必要な手続きの電子化を検討し、リサイクル原料の輸出入の迅速化を図る。そのほか欧米のみならず、東南アジアから輸入を増やす。具体的には廃棄物を回収する仕組みの技術協力や技術者支援に取り組む。

私はこう見る 回収システム構築カギ SMBC日興証券シニアアナリスト 山口敦氏

SMBC日興証券シニアアナリスト 山口敦氏

銅は新規鉱山の開発が滞っており、銅鉱石が希少化してきている。資源の乏しい日本では将来的に銅鉱石が枯渇する可能性がある。さらにリサイクル原料も各国で取り合いが激しくなっており、資源を確保するための回収システムの構築が求められる。

リサイクル原料を活用するためには、不純物を取り除く前処理が必要だ。コストとの兼ね合いを考慮したプロセス形成が不可欠となる。また調達の観点ではスクラップを回収するシステムを構築することが必要であり、回収拠点や営業拠点の整備することも欠かせない。

銅だけでなく他の有価金属のリサイクル体制を持つ企業もあり、各社でリサイクルプロセスや集めているリサイクル原料が異なる。取り組みの温度差はあるがリサイクル原料と鉱石の両方を確保することが、資源確保の観点から重要となる。(談)

日刊工業新聞 2024年8月29日

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