「自治体ライドシェア」運行管理受託で実績着々、日野自動車が生かすノウハウ
日野自動車が新規事業として取り組む自家用有償旅客運送(自治体ライドシェア)の運行管理受託サービスについて、自治体による導入実績が着々と積み上がっている。サービスの提供開始から約1年が経過した8月5日時点で、鳥取県智頭町や滋賀県高島市など6地域が同サービスを導入した。トラック・バスメーカーとしての知見を生かした同サービス。「運転手の業務効率化や人件費の適正化につながっている」(智頭町企画課の西川淳主幹)と一定の効果も見えてきた。(大原佑美子)
自家用有償旅客運送制度は、人口減や高齢化などでバスやタクシー事業者による輸送手段を確保することが困難な場合に、市町村やNPO法人などが自家用車を活用して提供する、有償の旅客運送だ。省令で「交通空白地有償運送」と「福祉有償運送」のみが認められている。
自家用有償旅客運送者は運行管理責任者の設置が義務付けられている。運行管理責任者の業務は、運転手の点呼・記録や運行計画の作成、運転手の酒気帯び有無確認と記録、苦情・事故処理記録など、法定業務も含め多岐にわたる。こうした業務を自治体などの運営主体自身で行うには、早朝の点呼のための宿直勤務が必要になるなど負担が大きい。地域の足として自治体ライドシェア制度を導入したい運営主体にとっての「ハードル」となっている。
そこで日野自は自家用有償旅客運送の運営主体から委託を受け、運行管理の責任者や代行者を配置し、東京都新宿区の日野自の拠点から遠隔で運行管理業務を行うサービスを民間企業として初めて開始した。「毎日運行・運行台数2台・ドライバー2人」の場合、サービス利用料金は月額15万円からという。
智頭町企画課の西川主幹は日野自のサービス導入により「運転手が事業所に集まることなくタブレット端末で遠隔点呼でき、家からスタートできるのが良い。ライドシェア利用者も最寄りの運転手が来てくれるので待合時間の削減につながる」と評価する。さらに「運転手が自治体に言いにくい改善点なども、日野自が聞きフィードバックしてくれる」(西川主幹)と当初想定した以上の効果も得られているという。
国土交通省によると、交通空白地有償運送を手がける団体は2023年3月31日時点で全国に698団体ある。日野自は「当社は交通に関わるプレーヤー。(トラックやバス事業などで)自治体からの信頼度もある」(ソリューション事業部ソリューション推進2グループの柴田義之グループ長)ことを生かし、課題を抱える団体にサービス拡販を急ぐ。
同社はこのほど「自家用有償トータルサポート」のウェブサイトを立ち上げた。自治体ライドシェアを導入したいが何から着手すればよいか分からない団体などの利用を想定。地域の課題整理、制度の理解、運行計画策定、リソース確保、実証準備、申請手続きまで運行立ち上げに必要な支援を行う。「保険会社などパートナーと連携した伴走支援なども検討する」(柴田グループ長)構えだ。
将来の輸送手段確保に向けては、車メーカーなどによる自動運転技術の開発も進んでいる。ただ、こうした先進技術は「実用化に時間がかかる」(日野自ソリューション事業部の三好克浩部長)。今起きている困りごとの解決に向け、日野自は交通に関わる事業者としての知見を生かし、サービス内容の充実にも注力する方針だ。