「企業価値とどうつながるのか、相関がわからない」…サステナ開示は負担先行、改善の一手
「人も予算も限られる」。オープンアップグループの村井範之上席執行役員はこう吐露する。同社は技術者派遣を主要事業とし、2023年6月期の売上高は1617億円。大企業の証となる東京証券取引所プライム市場に上場し、時価総額は約2000億円だ。一方でサステナビリティー(持続可能性)情報開示の担当者は3人にとどまり、上場しているとはいえ少数だ。
それでも、環境や社会課題の解決が重要と捉え、試行錯誤しながら開示している。だが、情報を評価する格付け機関との間に“溝”を感じることもある。活動実績があっても公開していないと、一方的に低評価となるためだ。「見えない相手に対して一生懸命取り組んでいるようなもの」(村井上席執行役員)と苦労を語る。
また、派遣業の実態とそぐわないと思われる設問もある。例えばサプライヤーの温室効果ガス(GHG)排出量や人権侵害を問う内容だ。だが、同社は製造業ではないので「サプライヤー管理」の概念がない。
機関投資家や取引先からも同様の質問が届く。「すべてに『該当しない』と答えるだけでも大変だ。業種によって重要課題が異なる。『該当しない』が多いと、無関心とみなされかねない」(同)と懸念する。
他にも負担を語る企業が多い。時価総額1兆円超の大企業は、常に投資家から注目される。一方、プライム上場には1兆円未満が1400社以上あり、開示しても反応が乏しいと感じる企業の方が多い。「せっかく開示しても、企業価値とどうつながるのか、相関が分からない」(製造業)といった本音も漏れる。
機関投資家も企業の負担を理解している。野村アセットマネジメントの大畠彰雄ネットゼロ戦略室長は「今の状況よりも改善してほしい」と願う。
負担軽減策の一つが、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の新基準だ。現在、複数の開示基準が存在し、企業に多数の開示要請が届く。新基準が国際標準になれば、乱立が解消されそうだ。今後、基準にない情報を求められても、企業は“基準外”を理由に開示を拒む手段を持てる。
一方、同社の山脇大シニアESGインベストメントマネージャーは「開示しないリスクもある」と指摘する。開示がなければ、機関投資家は調査会社からデータを購入することがある。その数値には推計値も含まれるため、企業は予想外の低評価が下される恐れがある。そのリスクと天秤にかけると、開示も選択肢となる。
「定量的な情報がないと、質問ができない」(大畠室長)という課題もある。例えば「異常気象によって100億円の被害が見込まれる」と記載があれば「どの設備なのか」「本業への影響は」といった会話ができる。逆に「被害は小さい」だけなら会話に発展しない。企業が開示しても「反応がない」と感じる理由かもしれない。
開示側と評価側との間に認識のギャップがあることは確かだ。この差を埋めない限り、企業は開示の負担ばかりが先行する。