総会前の有報提出、強まる声…「一体開示」期待と課題
「ガラパゴス化した開示体系」―。経済産業省が設置した「企業情報開示のあり方に関する懇談会」の中間報告には、メンバーからのこんな指摘が記載された。異なる法律や制度に基づき、複数の種類の書類が存在する日本独自の情報開示ルール。上場企業の作業負担が増える要因であり、投資家からも投資判断の根拠となる情報が見えにくい、といった問題が指摘されるが、今、別の観点からも開示の効率化に迫られている。
「有価証券報告書(有報)の開示が株主総会前のタイミングになるよう、その環境整備について金融庁を中心に関係省庁と連携して検討を進める」。岸田文雄首相は4月、コーポレートガバナンス(企業統治)改革の推進に向けた意見交換会で、企業と投資家の一層の対話促進に向けこう発言した。
決算期末から45日以内の開示が求められる決算短信をはじめ、3カ月以内の報告義務がある有報、基準日から3カ月以内の開催と定められている定時株主総会に提出を求められる事業報告書など、期末から概(おおむ)ね3カ月の間、企業は複数の開示資料の作成に追われる。限られた人員で対応せねばならないケースも多く、総会前の有報の開示は難易度が高いのが現状だ。
しかし投資家からの要望は強い。情報開示のあり方懇談会の中間報告でも「有報の情報が議決権行使に利用されないのは本末転倒である」「株主提案に関する検討を行うためにも、定時株主総会前にサステナビリティー(持続可能性)関連情報を含めて十分な情報が開示されることが重要」との意見が示された。
効率的かつ充実した開示情報の両立に向けて同懇談会が提示したのが有報、事業報告書、コーポレートガバナンス報告書、統合報告書を一つの法定開示に集約する「一体開示」の形式だ。一つの書類にまとめることで、企業が掲げるビジネスモデルや事業戦略などを実際の業績やサステナビリティー関連の指標といった定量データで裏付けられるようになる。
一体開示に対する企業の関心は高い。2019年に実施されたアンケートでは、9割の企業が一体開示を前向きに検討、もしくは興味があると回答した。
一方で課題もある。日本の上場企業は約4000社あり、時価総額も100億円程度から数十兆円までと幅広い。財務からサステナ情報までを開示する体制が整っていない企業もあれば、大企業でも長年積み上げてきた実務体制を変更する心理的抵抗が考えられる。また株主総会の前までに全ての情報を提供する作業負担は大きい。同懇談会の中間報告では「株主総会の開催時期を現状よりも遅らせることが現実的」と指摘された。
経産省幹部は「総会の開催時期の後ろ倒しや一体開示は現行法でもできる」と話す。とはいえ新たな開示体系の移行には、どの程度の記述であれば違反や罰金の対象にならないか、といったセーフ・ハーバー・ルールを設けるなど、現在の有報とは異なる規定や制度などを整える必要がある。金融商品取引法や会社法といった関連する法律の改正も視野に、今後の議論の高まりが期待される。