環境組織の高評価“総なめ”の日本企業、ビジネスでの恩恵にどうつなぐか
排出削減、価値につなぐ
非政府組織(NGO)の英CDPは2023年、世界の大企業が公表した環境関連の開示内容を採点し、最優秀の「Aリスト」に日本の126社を選んだ。日本はAリスト数で国別トップに輝いた。
また、日本企業は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同も1488社と世界首位。温室効果ガス(GHG)排出削減目標を評価する「サイエンス・ベースド・ターゲッツ(SBT)」からも930社が認定を受けている。
日本勢は国際評価を“総なめ”にしている。だが、ビジネスでの恩恵が分かりにくく、「高評価が株価や取引につながっている感覚はない」(IT機器メーカー)という声が聞かれる。
評価獲得のためにコンサルティング会社にデータ収集を依頼する企業も珍しくなく、開示費用も跳ね上がっている。「上場コスト」と割り切る企業も少なくないが、「国際評価から卒業したい」(建築関連企業)と本音も聞こえる。
「スコープ3」排出量も、疑問を感じながらも開示する企業がみられる。スコープ3は調達品の生産や自社製品の使用に伴う排出量を計算する国際基準。大企業はサプライチェーン(供給網)全体の排出ゼロが命題となり、スコープ3が注目されている。
だが、現状の計算方式では排出ゼロにはならない。調達した額や量に応じて二酸化炭素(CO2)排出量が決まっているからだ。例えば熱可塑性樹脂は100万円当たり7・72トンなので、年間の調達額が1億円だと「年772トン排出した」と推定する。排出ゼロには調達を「ゼロ円」か「ゼロキログラム」にする必要があり、非現実的だ。
また、通常の企業であれば商品が売れるほど調達量が増え、スコープ3排出量も増える。投資家は売上高の拡大を評価するのか、それとも排出量の増加をマイナス評価するのか、不透明だ。
一方、排出量算定を支援する新興企業、アスエネ(東京都港区)の西和田浩平最高経営責任者(CEO)は、「世界の評価軸が変わっており、上場企業は排出削減が評価されてチャンスになる。取り組まないと日本産業は衰退する」とスコープ3開示の意義を語る。
計算の課題については「2次データから脱却し、1次データに移行する」と解決策を明確に示す。2次データとは推定値であり、現状の計算方法。1次データはサプライヤー1社1社に聞いた排出量の実測値だ。大企業は実測値が分かれば、排出量の少ないサプライヤーから調達してスコープ3排出量を減らせる。サプライヤーも削減努力を評価してもらえる。
だが、1社1社からの実測値の回収は新たな負担を生む。そこでアスエネは、デジタル技術を駆使して排出量の計算や回収の負担を抑えるサービス提供を目指している。産業界全体でも実測値の導入が議論されている。西和田CEOは「開示を頑張った企業が優遇される社会をつくりたい」と言葉に力を込める。
サステナビリティー(持続可能性)情報開示の負担が大きければ、企業の競争力がそがれる。企業の努力が報われるためにも、適切な負担と評価が望まれる。(おわり。編集委員・松木喬、同・政年佐貴恵が担当しました)