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接客態度を判定・若年層を開拓、保険業界で加速するAI活用

接客態度を判定・若年層を開拓、保険業界で加速するAI活用

新しい営業端末を前に接客のロールプレイを行う太陽生命の職員(イメージ)

生命保険業界でコミュニケーションツールに人工知能(AI)を活用する動きが広がっている。太陽生命保険は16日、AI搭載の営業端末を開発し、8月から約9300人の職員に導入すると発表した。営業職員の新規採用が増える中で、人材教育と営業両面の効率化を狙う。第一生命保険はメッセージ形式で消費者と雑談するAIチャットボットを開発した。顧客と日常の何げない会話を通じ、接点を強化。商品やサービスの提案につなげる。人材不足の中で、既存業務をAIで補う動きが生保各社で活発だ。

太陽生命 接客態度をAI判定

「あなたの点数は86点です」―。太陽生命は営業職員がパソコン型の営業端末に向かって接客のロールプレイを行うと、言葉の明晰(めいせき)さやスピードなどからAIが採点するシステムを導入した。これまでは指導者がつきっきりでロールプレイの相手役を担ってきたが、今後はAIで自己訓練を重ねてもらう。AIが採点した点数が高くなったら、指導者に見てもらうようにする。

太陽生命は賃上げや働き方改革の進展などから、この1、2年で営業職員の数が増加。2023年3月は約9000人に対し、同年9月は9210人、24年3月は9300人と増えている。人手による新人教育と併せ、デジタルツールも充実させて、職員を促成栽培する狙いだ。

新端末は、年齢や性別、年収などを入力すると、AIが適切な保険プランを提示する機能もある。また、出来上がったプランを機械が読み上げて説明する動画「デジタル提案書」の作成も可能だ。同社は「説明が苦手な新人職員はデジタル動画で説明を補うことができる」としている。

第一生命 チャットボットで若者開拓

第一生命は、「愛すべきドジっ子、でも頑張り屋」というユニークなキャラクター設定のチャットボット「ICHI(いち)」を開発。5―6月に、同社のLINE公式アカウント登録者に案内し、約1万人が参加する実証実験を行った。

第一生命はチャットボットで若年層とのコミュニケーションを促進

同社によると、若年層には営業職員が対面で保険を提案することに心理的なプレッシャーを感じる人も少なくないという。このため、チャットボットは保険は提案せず、「最近の悩みは何ですか」などと尋ね、何げない雑談から資産形成や保険に関するニーズを収集する。

AIの進化で、ほぼ人間と同等の自然なやりとりを実現した。ただ、間違うこともあるため、時にはドジを踏んでしまうという設定にしたという。ユーザーから推奨する保険商品を聞かれた際には、第一生命のウェブサイトの商品ページなどを案内する。

同社は「デジタルのため、24時間、顧客と会話できることが最大の利点」(第一生命のDX推進部)と手応えを感じる。今後、チャットボットから資料請求にたどり着く割合など効果を検証した上で、本格展開の是非を判断する。

他の大手もAI活用に力を入れている。人手不足を補いつつ、営業の効率を引き上げるのが狙いだ。日本生命保険はAIを活用して営業職員が顧客を訪問する前に、顧客提案に関する適切なアドバイスを受ける仕組みを導入した。明治安田生命保険や住友生命保険も、営業端末にAIの搭載を進めている。

技術力を持ったベンチャー企業やスタートアップの参入などでAIは急速な進化を続けている。AIを搭載したツールが相次いで開発される中、自社に適したツールの見極めや導入などに関する知見を持った人材の育成や確保が各社の課題となりそうだ。

日刊工業新聞 2024年7月17日

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