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チャットGPTどう使う…保険各社の事例から探る有効な活用策

チャットGPTどう使う…保険各社の事例から探る有効な活用策

チャットGPTを活用して作成した住友生命のニュースリリース

急速に利用人口が拡大する対話型人工知能(AI)「チャットGPT」の導入が保険業界でも相次いでいる。ただ、有効な使い方が分からず、最新技術に手をこまねいている企業も少なくない。そこで、各社の事例から効果的な活用策を探る。(大城麻木乃)

「このニュースリリースはチャットGPTで作成しました」―。住友生命保険は7月、職員約1万人が利用できるチャットGPTのシステム導入のリリース作成に、チャットGPTを活用した。

担当したのは情報システム部の宮本智行部長代理。同社は元々、リリースを広報ではなく、情報元の部署が作成している。宮本氏は「てっきり広報が書くと思っていたが、私がいきなりリリースを作成することになった。焦ったがチャットGPTを使うことで何とか形になった」と打ち明ける。

宮本氏は、まずチャットGPTへの最初の命令文で「ニュースリリースはどうやって作ればいいですか。アドバイスをお願いします」と助言を仰いだ。すると「見出しが重要」や「最後に会社の問い合わせ先を書く」などと書き方の手順が返ってきたという。

次に「テーマは『住友生命、チャットGPTを職員1万人に開放』なのですが、サンプル文などあれば助かります」と打ち込んだところ、「違和感のない文章でリリースが提示された」(宮本氏)と驚く。

この文を土台に、同部署の職員に追加で盛り込む要素を確認し、出てきた意見をすべてチャットGPTに投入。「これでリリースを作成してください」と再度、依頼したところ、「外部に出してもおかしくないリリースに仕上がった」(宮本氏)という。

住友生命は職員がチャットGPTを活用しやすいように、「文章要約」や「新企画提案」など用途ごとに命令文のひな形を用意し利用を促している。7月13日の運用開始後、約1万人の職員のうち実際に利用した人は約1000人で、週に約1万件のメッセージ入力があるという。

今後は職員から利用時の悩みを聞き取り、出てきた意見を全部チャットGPTに入れ、「効果的な利用方法もチャットGPTに考えてもらう予定だ」とデジタル担当の岸和良エグゼクティブ・フェローは語る。

岸氏は、将来的にはチャットGPTをうまく使える職員とそうでない職員とで「仕事の遂行能力に差が生じてくる」と指摘する。職員全体の能力を底上げするため、使い方にたけた職員を「プロンプト(命令文)プロフェッショナル」などと認定し、周りの職員に使い方を広める活動も行う予定だ。

T&Dフィナンシャル生命保険(TDF)は、ITコンサルティング会社のエスタイル(東京都渋谷区)と組み、コールセンターの業務効率化に向けチャットGPTなどの大規模言語モデル(LLM)を活用した実証実験を始めた。TDFのコールセンターでは、顧客との会話のやりとりをAIが自動で文字起こしするシステムを導入している。オペレーターは電話を切った後、文字起こしの文を確認して要約し、管理職に送る作業がある。この文の要約作業をLLMに任せる計画だ。

三井住友海上は営業部門の資料作成などにチャットGPTを利用する

同社企画部の山本紳一郎上級エキスパートは、これが実現すること電話を切ったらすぐに新しい電話を受けとれるようになり、「応答率の向上が期待できる」と見る。

また持病がある人の保険引き受けが可能か否かの判断にもLLMの活用を検討する。現状は複雑なケースは医師に確認したり、過去の事例を調べたりして回答に半日―1日かかる場合がある。医学的な知識や過去の事例をLLMに大量に学習させることで、「即答できるようになる」(山本上級エキスパート)という。

いずれも半年程度、実験を行い、効果が確認できれば2024年度の導入を目指す。

三井住友海上火災保険は5月中旬に1万人を超える社員がチャットGPTを使える環境を整えた。営業部門でも顧客へのプレゼンテーション資料の作成などにチャットGPTが使われているが、導入直後の1―2週間が利用のピークで、「その後は週を追うごとに利用者が減っている」(企業営業推進部の高橋智宏課長代理)という。

社員が打ち込んだ命令文を見ると、「有名な手土産」や「店の営業時間」など「グーグルの検索と変わらない命令文も散見された」(同)。同社が利用するチャットGPTは2021年までの情報を基につくられたもので、「最新情報を知りたい場合はグーグルが便利だ」(同)。

高橋課長代理は、チャットGPTはグーグル検索とは異なり、「脳を借りるイメージが重要」と強調する。同社は「ビフォア・アフター形式」で悪い命令文と良い命令文の事例をチャットGPTの掲示板に載せ、社員の参考になるよう試みる。命令文の作成方法を具体的に示すことで、社員の利用を促す方針だ。

日刊工業新聞 2023年08月15日

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