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「EV・FCVトラック元年」に熱気、米で導入活発化も残る課題

「EV・FCVトラック元年」に熱気、米で導入活発化も残る課題

独ダイムラー・トラックのEVブランド「RIZON」の新モデル

米国で電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)タイプのトラック導入に向けた動きが活発化している。独ダイムラー・トラックは米国向けEVトラックで積載量を増やしたモデルを追加。ノルウェーのヘキサゴンプルスは2024年後半に量産を始める米国向け大型EVトラックを5月の展示会で公開した。ホンダは米ゼネラル・モーターズ(GM)と共同開発した燃料電池システム搭載のコンセプトトラックを発表するなど「EV・FCVトラック元年」の様相を呈している。厳しい環境規制を背景に顧客の脱炭素ニーズは強まっているが、充電・水素充填拠点の整備など普及に向けた課題も残る。(大原佑美子)

ダイムラー・トラックはEVブランド「RIZON(ライゾン)」の車両総重量(GVW)を現行モデル比約388キログラム増の約8・5トンにし、積載量を増やした2モデルを追加した。子会社の三菱ふそうトラック・バスがOEM(相手先ブランド)供給する。一度に運べる荷物量を増やして顧客の効率運送を支援し、拡販につなげる狙いだ。

5月下旬に米ラスベガスで開かれた商用車のクリーン技術に関する展示会「ACTエキスポ2024」では「提携やM&A(合併・買収)が盛んな業界の動向が目立った」(関係者)。協業により機を逸することなく需要を取り込もうとする各社の戦略が透けて見える。

ホンダは同展示会でFCVトラックのコンセプトモデルを展示した。GMと共同開発した燃料電池システムを、米トラックメーカーのピータービルトの大型トラックに搭載した。ホンダは今後、米国市場で燃料電池システムなどの拡販を目指し、新たなパートナーや事業形態も模索する方針だ。

日野自のシャシーにヘキサゴンプルスの主要電動システムを搭載した米国向け大型EVトラック「Tern RC8」

日野自動車のシャシーに、ヘキサゴンプルスの主要電動システムを搭載した米国向け大型EVトラック「Tern RC8」も同展示会で初公開された。航続距離は約230マイル(約370キロメートル)で、パナソニックエナジーが同社として初めて商用車向けに車載リチウムイオン電池(LiB)を供給する。

大型トラックは積載量が多く長距離を走る。EVの大型トラックの場合、多くの電池容量を必要とするなど電動化では不利な点もある。ただ、運輸業務ではEV大型トラックの導入が着々と進みつつある。

5月、米アマゾン・ドット・コムは同社の運送業務に初めてEV大型トラックを導入すると表明した。スウェーデンのボルボ・トラックスのEV大型トラック「VNR」で航続距離は275マイル(約443キロメートル)。このほか食品・飲料製造大手の米ペプシコは、米テスラのEV大型トラック「テスラ・セミ」を採用した。

EV・FCVのインフラの整備は道半ばの状況にある。米エネルギー省によると、米国では6月末時点で約6万5000カ所のEV充電拠点があるが、そのうち直流(DC)急速充電器は約1万カ所にとどまり、しかも沿岸部に集中している。水素充填拠点は特定の一部の顧客のみが利用できる拠点を含めても50カ所強だ。

一方、環境規制の強化がEV・FCVの普及やインフラ整備を加速させる可能性もある。カリフォルニア州大気資源委員会(CARB)は、同州で販売される新車トラックに占めるゼロエミッション車(ZEV、排出ゼロ車)の割合を段階的に引き上げる規制「アドバンスド・クリーン・トラック(ACT)」を制定。23年の同州のZEV中型・大型トラックの新車販売台数は前年比倍増し、トラック・バス・バンの新車6台につき1台がZEVだった。

マークラインズの菅野知宏チーフコンサルタントはEV・FCVトラックの普及について「ACTと同等の法規の全米展開という国策にかかっている」と指摘。他方で「EV・FCVのコスト高、インフラ不足の克服もやはり普及のカギを握る」と説明する。

日刊工業新聞 2024年7月3日

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