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EV需要拡大が鈍化傾向…投資計画20兆円に迫る国内メーカー、電動化戦略に変化はあるか

EV需要拡大が鈍化傾向…投資計画20兆円に迫る国内メーカー、電動化戦略に変化はあるか

トヨタが「ジャパンモビリティショー2023」で世界初公開した、高級車ブランド「レクサス」の次世代EV「LF―ZC」

脱炭素社会の実現に向けて、自動車業界ではメーカー各社がこぞって電動化戦略を発表している。2030年までの世界の主要自動車メーカーの電動化投資は計1兆2000億ドル(約170兆円)に上るともいわれ、日本の乗用車メーカー7社の投資計画も計20兆円に迫る勢いだ。しかし、23年には電気自動車(EV)需要の拡大ペースに鈍化が見られ、投資計画を見直す動きも出てきた。24年は国内各社の電動化戦略にも変化が表れるかもしれない。

製品投入出遅れ 具体的な計画示し存在感

国内メーカーでは、トヨタ自動車が25年ごろまでに世界で販売する全車種を、電動専用車もしくは電動グレード設定車とする予定。EVは26年までに年間150万台の販売を目指し、10モデルの投入を計画する。30年までのEVや車載電池への投資額は約5兆円に上る見通しだ。

ホンダは30年までに世界で年200万台超のEVと燃料電池車(FCV)を生産し、40年までに世界で販売する新車の全てをEVまたはFCVとする計画。30年までに電動化とソフトウエア領域に約5兆円を投じ、電動化を加速する。

日産自動車は21―26年度に電動化と技術革新に約2兆円を投資し、30年までにEV19車種を含む電動車27車種を投入する。26年度の各地域の電動車の販売比率は欧州98%、日本58%、中国35%。米国は30年度までにEVのみで40%以上とする計画だ。

スズキは30年度までに日本、欧州、インドで計17車種のEVを投入する計画。30年度までの電動化関連投資は約2兆円で、そのうち5000億円を電池関連に投資する。

マツダは30年までのEV関連の開発、生産、電池調達などへの投資額がサプライヤーも合わせると約1兆5000億円となる見通し。28年以降にEVの投入を本格化し、22年3月期に1%だった世界販売のEV比率を30年に25―40%に高める。

三菱自動車は28年までに世界で電動車9車種を含む16車種を投入する計画。30年度に電動車販売比率50%、35年度に100%の目標を掲げる。30年度までの電動車への研究開発や設備投資には最大で1兆8000億円を投資する。

日産の英サンダーランド工場。EVの生産車種拡充や電池工場棟の増設に最大20億ポンドを追加投資する

スバルは30年に世界の新車販売の約50%に当たる60万台をEVとする。28年末までにEVを8車種投入し、米国で40万台の販売を目指す。30年ごろまでの電動化対応投資は、国内生産体制の再編に充てる2500億円を含め、約1兆5000億円を見込む。

日本メーカー各社の電動車の投資計画にはFCVやプラグインハイブリッド車(PHV)なども含まれるが、欧米や中国市場で急速に成長してきたEVに対しては、投入車種数など、より具体的な計画を示している。日本メーカーはハイブリッド車(HV)で海外勢に先行しているが、中国や欧米に比べEV製品の投入の遅れなどが指摘されている。具体的な計画を示すことでEV市場でも存在感を発揮したい考えだ。

生産投資見直し 市場激変、先行き読めず

一方、海外ではEVの需要拡大ペースが鈍化し始めており、メーカー各社の投資戦略に変化が生まれている。米フォード・モーターは23年10月に米ミシガン州で建設中の電池工場の投資計画150億ドル(約2兆1300億円)のうち、120億ドル(約1兆7000億円)を減らすと発表した。EV事業は赤字が続いており、ピックアップトラックもEVモデルの販売が振るわず、24年の生産目標を半減した。

米ゼネラル・モーターズ(GM)は24年から米ミシガン州の工場で生産する予定だったEVピックアップトラックの生産を25年後半に延期した。35年までに新車の全てをEVとする計画は維持するが、22年から24年前半までに40万台としていたEV販売目標の達成は断念した。

米テスラは金利の上昇に対応した値下げが利益を押し下げ、23年7―9月期決算の純利益が前年同期比44%減と2四半期ぶりに前年同期を下回った。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はメキシコの新工場建設計画についても、慎重に景気動向を見極める考えを示している。

米国では金利上昇により、自動車購入ローンの返済延滞率が上昇。ローン審査が厳しくなり、EV販売のペース拡大が鈍化する一因となった。内燃機関車と比べて高価なEVを購入できる消費者層の需要が一巡しつつあるとの見方もある。

欧州でもEV需要の拡大ペースは鈍化している。そのため独フォルクスワーゲン(VW)は23年11月に、東欧で計画していた4番目の電池工場の候補地決定を延期することを明らかにした。ドイツでは新型コロナウイルス感染症対策で未使用だった予算を割り当てたEV購入補助金について、予算の転用が認められなくなり、予定より1年早い23年12月半ばに補助金が終了。EV普及を後押しする環境にも変化が生まれている。

EV市場が急拡大した中国では、現地メーカーとの競争が激しく、三菱自が生産撤退を決めた。ただ、中国内の生産能力が需要を上回っていることから、現地メーカーもEV事業で利益を確保するのが困難な状況とされる。新しい市場を求めて現地EV大手の比亜迪(BYD)などはタイに進出を始めており、日系メーカーが高シェアを握る東南アジアに競争の舞台が広がっている。

海外でのEV需要の動向の変化は、日本メーカーの戦略にも影響する。ホンダは23年10月、米GMと進めていた量販価格帯のEVの共同開発を中止することを明らかにした。開発したEVは27年以降に北米などで投入する予定だったが、中国メーカーの台頭など市場環境の変化を受け、共同開発の中止を決めた。世界のEV市場は短い期間に目まぐるしく変化しており、各社の戦略も1年後にどう変化しているかは読み切れない。24年の自動車各社の電動化戦略から目が離せない状態が続く。


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日刊工業新聞 2023年1月1日

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