高難度「溶接技能」をデジタルで可視化、IHI相生工場が挑む技能伝承
IHIの相生工場(兵庫県相生市)は火力発電用ボイラ、液化天然ガス(LNG)・アンモニアタンクに加え、近年ではカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けたメタネーション装置の製造を手がけている。時代の要請に応じて生産品目が変化する中、同工場にとって重要なコア技術であり続けているのが溶接技術だ。ベテラン社員による技能伝承に加えて、デジタルツールを活用した技能の可視化などを通じて人材育成に取り組んでいる。(八家宏太)
「世界に示そう我らの品質 歴史に残そう我らの製品」。相生工場が掲げるスローガンだ。1907年創立の播磨船渠(せんきょ)を前身とする同工場。1970年代には造船の進水数が世界1位を記録した時期もあった。
同工場に、現在も事業の中心であるボイラを手がける桜ケ丘工場が新設されたのは68年。電力業界から一般産業向けまで、国内外でボイラの納入実績を積み上げてきた。こうした製品の生産を通じて培った溶接技術を中心とする「モノづくり力」を同工場では継承し続けている。
技能に磨きをかけるため、溶接のほか組み立てや計測など業務に必要な技能を競い合う社内コンクールを年1回実施している。同コンクールで優秀な成績を収めた従業員は、兵庫県の技能大会など外部の大会に出場。大手企業が多数立地する兵庫県の大会でも優秀な成績を収める人材を輩出している。
コア技術の溶接は内容が幅広く、難易度も異なる。そこで従業員それぞれの技量を管理しながら技能伝承を進めている。特に径が大きい管と管をつなげる溶接など高難度の技術は、習得するまでに平均約10年間を要するという。
人材採用の面でも、溶接の教育を受けてきた人材の確保が課題になっている。溶接技術の習得を志望する学生が減少しているのもその一因だ。相生工場の上道良太工場長は「採用できた人に必要な技量を持ってもらう」とし、入社以前の技能や知識の有無にかかわらず早期のスキルアップに向けた取り組みを進めている。
ベテラン社員による技能伝承に加え、カメラを使用して加工時の様子をモニタリングするなど、デジタル技術を活用した技能の可視化を実施。「以前に比べ、技能習得が早くなっている」(上道工場長)と手応えを示す。
脱炭素に向けて今後は火力発電ボイラのバイオマス燃料転換工事や、アンモニアタンクなどの需要増加が見込まれている。上道工場長はこれまで培ってきた技術に加えて「新しいスキルも必要になる」と強調。脱炭素の時代でも役割を果たし続けるため、従業員のリスキリング(学び直し)にも取り組む方針だ。