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トヨタ・日産・ホンダ…危機感あらわに対策急ぐ、中国で日本車メーカー苦戦

世界最大の自動車市場である中国で、日本の乗用車メーカーが苦戦を強いられている。コロナ禍の3年間で電動化や知能化に向けて大きく変質した市場の動向に追いつけず、足元で販売を落とす事態となっている。危機感を募らせる各社は対応策を打ち出すが、効果的とはいえないのが現状。撤退を模索する動きもある。最大市場・中国の変化に対応し、日本車メーカーは生き残れるのか。(編集委員・錦織承平、同・政年佐貴恵、大原佑美子)

EV・PHVなど販売急増

英LMCオートモーティブのデータによると中国は2022年の世界の乗用車と小型商用車の販売台数の32・9%を占める最大の市場。中国汽車工業協会(CAAM)、マークラインズによると中国市場における新車販売の23年1―7月累計台数は前年同期比7・9%増の1562万6000台。このうち新エネルギー車(NEV)は同41・7%増の452万6000台で、29・0%を占める。NEVの内訳は、電気自動車(EV)が同29・5%増の326万台、プラグインハイブリッド車(PHV)が87・4%増の126万3000台、燃料電池車(FCV)が同64・1%増の約3000台と、いずれも大幅に増えた。

一方、日本メーカー3社の1―7月累計の販売実績を見ると、トヨタ自動車が前年同期比4・9%減の103万2100台、日産自動車が同25・7%減の41万8016台、ホンダが23・8%減の61万9382台といずれも販売を落としている。

中国市場はここ数年、政府の支援策もあってNEVシフトが進んできた。その動きは23年に入って顕著になり、3月頃からはNEV価格の競争激化も起きている。日本メーカーが販売を落としたのもNEVシフトと価格競争の両方の要因によるものだ。市場全体が回復する中で販売を落とし、市場動向について行けていない現状が浮き彫りとなった。

ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表アナリストは「中国ではグローバルメーカーが苦戦している。22年12月にウィズコロナに政策が転換され、春節を経て3月になって、ようやく市場の変化がわかった。構造変化に対応しようと各社が腹をくくったのが4月の上海モーターショーだった」と、対応の遅れを指摘する。

日本メーカー各社も危機感をあらわに対策を急ぐ。トヨタは中国市場について「ゼロエミッション車が好調で、内燃機関車で激しい価格競争が起きている」と説明。この状況を受け、広州汽車集団との合弁会社では約1000人の期間工の契約を満了前に終了した。対応を加速するため、現地開発機能の強化にも乗り出す。常熟市の研究開発子会社「トヨタ自動車研究開発センター(中国)」を「トヨタ知能電動車研究開発センター(中国)」(IEMバイ・トヨタ)に改称。同社の開発案件に、広州汽車、第一汽車集団、比亜迪(BYD)との各合弁会社の開発人材などが加わる。IEMバイ・トヨタにはデンソーアイシンも参画し電動パワートレーン(駆動装置)を開発する。製造面では現地サプライヤー開拓、部品設計の見直し、モノづくり改革を進める。

日産は中国の合弁先と協議し「(開発拠点など)現地のアセットを活用し、日産ブランドにNEVのラインアップを前倒しで投入していくことで合意した」(内田誠社長)とし、24年度から複数のNEVを投入しラインアップを強化する考え。稼働率が低迷する中国内の工場では「海外市場向け車両の補完生産についても検討を進める」(同)とし、収益改善策の検討を急ぐ。

ホンダは23年4―6月期の中国での販売が前年同期を下回った。ガソリン車もハイブリッド車(HV)も内陸部などで需要があるため、注力エリアにメリハリをつけ、さらに販売奨励金を活用していく。前年と比べ利益率の低下は避けられない見通し。EVを24年に3車種、27年までに10車種投入し、他地域より5年早い35年までに電動車販売比率を100%とする計画だ。

マツダも中国事業のてこ入れに動く。7月末には現地生産を担う一汽乗用車への生産委託を終了したと明らかにした。さらにジェフリー・エイチ・ガイトン専務執行役員は8日の決算会見で「急速に進む電動化に対応すべく現地パートナーと対応を検討している」と説明した。ただ「中国市場からの撤退は考えていない」と明言し、25年頃に向けNEVのラインアップを拡大する方針。

三菱自動車は3月から停止している広州汽車との合弁工場の再開めどが立たない。広州汽車とは事業構造改革の方針について協議を続けているが、交渉は難航しているようだ。「三菱自は撤退する方針を決めているが、合弁相手先が了解していないようだ」(関係者)との声も聞かれる。

さらに独フォルクスワーゲン独BMW、米ゼネラル・モーターズなどの海外車メーカーも中国向けNEVラインアップを強化する方針を続々と打ち出しており、競争はさらに激しさを増す見通し。中国は世界最大の自動車輸出国にもなっており、競争激化の波はアジア市場などにも及んできている。日本の各社は今後の中国市場にどう向き合うのか、競争が広がる地域でどんな対策を打つのか、早急に答えを出す必要に迫られている。

【私はこう見る】提供する「価値」再定義必要/ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリスト・中西孝樹氏

中国でグローバルブランドが苦戦している。NEVの市場シェアが足元で30数%まで上がり、そこでの日本車のシェアが低い。市場がNEVにシフトするほど日本車のシェアが落ちる構図だ。また、燃費などの性能や日本車のブランドといった価値がユーザーに届かなくなった。ユーザーの好みはインテリジェントカーに移り、それがNEVとセットで展開されている。大型モニターを使った車の空間価値などを提供するSDV(ソフトウエア定義車両)と呼ばれる車が売れている。

価格も同等レベルの車が日本車より安く、NEVは購入時の「車両購置税」が減免され、燃料費も安い。3月以降はそのNEV市場で猛烈な価格競争が起き、内燃機関車は一層競争について行けなくなった。これらは、中国がゼロコロナ政策をとる間に市場が変化したのを見抜けず、商品開発にフィードバックできなかったためだ。日本だけでなく独フォルクスワーゲンなどグローバルメーカーに共通している。

グローバルカーを中国に持っていくだけのビジネスモデルは終わった。各社は現地パートナーと現地向けモデルを開発する方針だが、成果が出るには時間がかかる。余剰人員を減らし、余剰工場を閉鎖するなど市場に身の丈を合わせ、提供する車の価値を再定義しなければならない。それができなければ撤退になるかもしれない。ただ、米中のデカップリング(分断)がいつまで続くかなど、不確実性もある。その中で中国とどう向き合うのか、各社はギリギリのところで考えている。(談)


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日刊工業新聞 2023年08月24日

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