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OS開発・DX加速…トヨタが進める“クルマの変革”、系列部品メーカーの動きは?

OS開発・DX加速…トヨタが進める“クルマの変革”、系列部品メーカーの動きは?

レクサスのEV専用車「RZ」。各社の電動化対応部品を搭載する

トヨタ自動車が、モビリティー社会のあり方を定義した「トヨタモビリティコンセプト」を打ち出した。自動車が社会インフラの一つとしてサービスなどとつながり、新たな価値を提供する未来の姿だ。その中心を担うのが、サービスや機能を提供し、逐次更新するソフトウエア。トヨタが開発を進める独自の車載用基本ソフト(OS)を筆頭に、トヨタ系部品各社によるソフト重視の開発や設計生産のデジタル変革(DX)といった取り組みが加速している。(編集委員・政年佐貴恵、名古屋・川口拓洋)

カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)と移動の価値、この二つのテーマを柱に私たちが目指すべきモビリティー社会のあり方をまとめたのが『トヨタモビリティコンセプト』だ」。4月の新経営体制方針説明会で、トヨタの佐藤恒治社長は力強く打ち出した。既存の車の延長上の進化から新しい役割まで、三つの領域で“クルマの変革”を進めるという。

一つ目は車の価値の拡張で、電気自動車(EV)の電力源としての活用や、行き先や走行データなどを活用した知能化など。二つ目はMaaS(乗り物のサービス化)も活用した、過疎地や空といった新しい領域でのモビリティー活用。三つ目はエネルギーや物流サービスなどと結び付いた、社会インフラとしてのモビリティーだと位置付ける。

こうした流れの根底には、遠隔通信による機能更新やエンターテインメントサービスなど、クルマの価値がソフトで決まる「ソフトウエア定義車両(SDV)」の拡大がある。佐藤社長は車の構成要素が既存のプラットフォーム(車台)と、車を動かす電子制御基盤、サービスなどを担うソフトの3層構造になっていると説明。「これから付加価値が高まっていくマルチメディア、車両制御、先進安全の三つの領域が相互でやりとりできるようにしなければいけない」と話す。

その手段が2025年の実用化を目指して開発が進む、トヨタ独自のソフト基盤「アリーン」だ。アリーンの具体的な進捗(しんちょく)は、まだ不透明な部分が多い。佐藤社長は「アリーンは先の3領域を、相互連携させながら動かすOSだと思ってもらえればいい」とした上で、開発環境などをオープンにすることで「サードパーティーのソフト価値を取り込める」とする。将来はアリーンを基盤に、車や生活にまつわるさまざまなアプリケーションが動作する社会を目指す。米グーグルのスマートフォン用OS「アンドロイド」と同じ発想だ。

部品各社、生産・設計効率化 世界の進化に迅速・柔軟対応

トヨタ系部品各社でも、SDVを念頭に置いた動きが目立ってきた。今後一層重要になるのが、車両原価低減につながる生産性向上だ。車載電池や車載システムにコストがかかるSDVでは、車両生産を効率化するほど収益性が高まる。DXによる生産や設計の効率化が、現場の足元の課題だ。

東海理化射出成形機向け金型で、設計工程の自動化に乗り出した。寸法情報などを3次元(3D)CADに加えることで、機械やシステムで図以外の情報を読み込むことを可能にした。これまで金型設計は、公差情報などが記載されている2次元図面と3Dモデルの二つを併用し、人が図面を読み解きながらシステムに入力していた。3Dモデルに公差情報などを落とし込むことで、金型を評価するための成形品測定を自動反映することが可能になり、数日の作業が数時間に短縮できる。すでに複数の金型で運用を始めており、25年度には生産準備に関するリードタイムで21年度比半減を狙う。

ソフトによる解析で押し出しピンを最適配置した、豊田合成の射出成形機向け金型

豊田合成はDXのための基盤整備に取り組む。サプライチェーン(供給網)に対し、射出成形機向け金型の3D設計データの提供を開始。グローバルで高い生産性を確保しながら品質の均一化を図る。

「これまではハードを磨き制御で生かすという考え方だったが、今は『ソフトに適合する良い製品をつくる』ことへ変化している」。“ソフトウエアファースト”の考えが浸透しつつあると明かすのは、ジェイテクトの松本巧取締役経営役員だ。

同社が22年秋に開発した自動操舵(そうだ)制御システム「ペアドライバー」は、その象徴と言える製品。システムが安全と判断した場合は運転者の操作補助にとどめ、危険になりそうな場合は支援介入度合いを強める。これまでの先進運転支援システム(ADAS)はオン・オフ機能のみだったが、システムによる安全運転と、運転者による操作性を両立する。

車の統合制御では、デンソーが「統合電子制御ユニット(ECU)」の開発に加え、ソフト開発でも部門横断組織を構築するなど動きを速めている。次期社長の林新之助経営役員は「SDV化が非常に大きな変化を引き起こしている」と受け止める一方で、「IT業界のスピードをどう車の世界に織り込むかは業界全体で道半ば」と指摘。「いかに市場形成して実用化するかが課題だ」との認識を示す。進化の速いソフトの世界との融合が、モビリティー社会の実現には急務。組織体制の再構築も含めて、いかに迅速かつ柔軟に動くかがカギとなりそうだ。


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日刊工業新聞 2023年05月08日

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