AI軸に技術融合…富士通が示した研究戦略の新展開
富士通は研究戦略の新展開として、人工知能(AI)を軸に五つの注力技術領域の融合化を推し進める。富士通研究所長を務める岡本青史執行役員EVPは4日、川崎タワー(川崎市幸区)で会見し「AIを軸にデータ&セキュリティーや量子コンピューティングなどの技術領域を融合化し、“グローバル1チーム”で新しい価値を創造する」と方針を示した。(編集委員・斉藤実)
生成AIがITのメガトレンドとして脚光を浴びる中、富士通は半導体からソフトウエア、量子コンピューティングまで、研究所が取り組む主要な技術領域にAIを掛け合わせ、新たな価値を生み出す考え。同日は世界初の技術を多数そろえ、デモを交えて披露した。
一押しは「エンタープライズ生成AIフレームワーク」。7月からAIサービス「コヅチ」で順次提供する予定。同フレームワークは企業ニーズに対応する特化型生成AIモデルを自動生成できる「生成AI混合」のほか、企業が持つ大規模データの関係性を独自技術のナレッジグラフでひも付けて生成AIへの入力データを高度化する「ナレッジグラフ拡張RAG」、生成AIの回答が企業規則や法令に準拠しているかを監査する「生成AI監査」の三つの機能で構成する。
ナレッジグラフ拡張RAGは大規模データを正確に参照できない生成AIの弱点を克服する技術。従来は数十万、数百万トークン規模だった大規模言語モデル(LLM)が参照できるデータ量を1000万トークン以上の規模に拡大でき、また、ナレッジグラフから関係性を踏まえた知識を生成AIに正確に与えることで、論理推論や出力根拠を示せる。
生成AI監査は生成AIの内部動作状態の解析から回答の根拠を抽出し提示する生成AI説明性技術と、回答と根拠の間の整合性を示すハルシネーション(幻覚)判定技術で構成する。
半導体領域では2027年に完成予定の線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)プロセス対応の次世代データセンター(DC)向けプロセッサー「MONAKA(モナカ)」に関連し、AIや高性能コンピューティング(HPC)などのソフトウエア群をモナカを出荷する前にそろえる計画を明らかにした。
またAI対応で需要が逼迫(ひっぱく)する画像処理用プロセッサー(GPU)の利用効率を高め、電力消費換算で従来比で半減できる技術「コンピューティングブローカー」も差異化の目玉とする。
ソフトウエア領域では生成AIの幻覚やAIをだます攻撃に対処する「真偽判定総合分析システム」や、1台の単眼カメラでリアルタイムに都市の3次元(3D)モデルが作れる「デジタルツイン」などの世界初の技術をデモで実演した。
量子関連では世界初の量子ノイズ除去技術や、個体物性の性能予測に有用な世界最高速の量子畳み込みニューラルネットワーク(QCNN)も紹介した。
「量子がもたらすケタ違いの計算機性能でAIの世界に革新を起こす」(富士通)など、技術のかけ算による相乗効果が注目される。