合宿でワンチーム…東大・ダイキン「10年連携」後半戦、事業成果引き出せるか
東京大学とダイキン工業による「10年で100億円」規模の大型産学連携が折り返しに入った。今も社員10数人が東大に駐在し合宿でワンチームとなる、従来と異なる人材交流・育成で研究成果につなげている。東大の教員が企業とも雇用契約を結ぶ、全学で唯一のモデルも同社との間で動く。後半戦ではいよいよ事業としての成果を引き出せるか、産学連携の多くの関係者は注目している。(編集委員・山本佳世子)
東大とダイキンは2018年12月に「産学協創協定」を結んだ。新型コロナウイルス感染症と重なりウェブ実施もあったが、同大を訪問した同社社員は延べ約2000人に上る。教員も多数が、各地の同社工場に出向いて交流が続いている。
共同研究へのプラス効果が大きい手法は、合宿だ。数十人でのプロジェクト立案や成果共有に、途中退席ができない遠方の同社研修所を活用した。行く前に「同社の課題に助言する」姿勢だった教員も、帰りには「皆の課題解決に向けて、このアクションを私がする」という意識に変容するという。東大の加藤信介特命教授は「連携が血となり肉となっている」と振り返る。
テーマごとの社会連携講座などは、当初は17件、増減を経て今も15件が走る。全学100件程度の中で部局も多岐にわたり、同社の存在感は大きい。研究成果は本業ど真ん中から未来を見据えた変革まである。
例えば空調の冷媒にフロンでなく二酸化炭素(CO2)を使うには高圧力が必要だ。この課題を、金属有機構造体に着目したハイブリッドヒートポンプで解決するめどを付けた。また家庭の太陽光発電と電気自動車(EV)充電器、ヒートポンプ給湯器などの制御が、開発したシステムにより直流接続を重視したまま可能なことを確認した。一方で同社の世界約100カ所の製造拠点の未来を考え、デジタルと人の心に配慮したモノづくりにもアプローチする。
6年目に入った今、同社の香川謙吉専任役員は「これからは事業の成果創出に力を注ぎたい」と強調する。当初の予算計画を上回るペースで投資が進んだこともある。東大の産学包括連携は多数あるが、特に個性的なダイキンとのケースは他の10社ほどが注目しており、気が引き締まるという。
東大は教員が他の研究機関とも雇用契約を結ぶ「クロスアポイントメント」制度で、企業版の「スプリットアポイントメント」を整備している。実例は同社に週1で出向く教員2人だけだ。「教員も『論文はいい、それより事業にどれだけ貢献できるかに関心がある』と言ってくれる」(香川専任役員)。社会変革につながる日本型の大型産学連携の成功例を―と高い志を掲げている。