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半導体産業復活へ勝負の分かれ目…大学が相次ぎ乗り出す人材育成の行方

半導体産業復活へ勝負の分かれ目…大学が相次ぎ乗り出す人材育成の行方

九大は「価値創造型半導体人材育成センター」で、他大学や高専、企業などと半導体のスペシャリストを育てる(開所式)

国策として次世代半導体の製造基盤の強化が進められる中、大学が相次いで半導体人材の育成に乗り出した。地元に先端工場が建設される熊本大学や九州大学、北海道大学は企業などと組み、業界をリードする技術者の養成を急ぐ。日本の半導体産業は1980年代後半に世界シェアで過半を持つトップの座にあったが、今日までに同シェアは10%以下に落ち込んだ。人材の空洞化が進んでおり、挽回には相当のスピードが必要になる。(藤木信穂)

DC向け需要急増、2ナノ量産技術確立

経済産業省は6月に改定した「半導体・デジタル産業戦略」で、国内で半導体製品を生産する企業の売上高を2030年に20年比約3倍の15兆円超に引き上げる目標を掲げた。生成人工知能(AI)や量子コンピューターの登場などでデータセンター向け半導体の需要は急増している。

経済安全保障の観点に加え、自動車やロボットなどモノづくり産業の競争力を高める好機にする。岸田文雄首相は8月に行われた半導体戦略シンポジウムで「半導体の安定的な供給体制の確保は、我が国、そして世界の経済社会にとって喫緊の課題だ」とのメッセージを発した。

戦略の一つ、データ処理の中枢を担う先端ロジック半導体では、ラピダス(東京都千代田区)が回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)の次世代半導体の量産技術を確立する。その先は、光電融合などの新技術で“ゲームチェンジ”を狙う。

日本が現在、生産できるロジック半導体は同40ナノ―90ナノメートル。最新のスマートフォンやAIに使う9ナノメートル以下の半導体の60%以上は台湾で生産されている。日本はロジック半導体で「10年遅れ」の状態にある。一方、半導体製造装置、半導体部素材については現在も存在感は大きく、それぞれ30%超、50%弱の世界シェアを持つ。

だが、ロジック半導体を含む集積回路製造業の撤退などで半導体人材はこの20年で40%近く減少。電子情報技術産業協会(JEITA)によると、国内主要8社だけで今後10年で4万人の人材が不足する見通しという。

こうした状況を受け、22年末に設立された研究開発拠点「技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)」を中心に国内外の教育・研究機関と連携し、次世代半導体の設計・製造を担う人材育成基盤が早急に強化される計画だ。

価値創造する教育改革推進 産学官・地域一丸で

大学も地域一丸となり半導体の教育改革に挑む。台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県への進出を受け、熊本大学は24年度から、データサイエンスをベースにした新学部「情報融合学環」と半導体人材の育成に特化した「半導体デバイス工学課程」を設ける。

宇佐川毅熊本大副学長は「大学院での教育も含め、解のない問題に自らで答えを出せる人材の輩出を目指す」と意気込む。東京エレクトロンソニーグループ、高等専門学校などとも人材育成で協力する。

9月に熊本市で開かれた応用物理学会の秋季学術講演会に出席した木村敬熊本県副知事は「産学官・地域の連携があってこその日本の先端ロジック半導体の再生だ」と取り組みを後押しする。

九州大学は「価値創造型半導体人材育成センター」を開設し10月から他大学や高専、企業などと半導体のスペシャリストを育てる全学教育プログラムを始めた。九大の白谷正治副学長は「半導体を使ってどう価値を創造するか。設計から製造、ビジネスまでを見通す国際的な人材を育てる」と力を込める。

九州工業大学や長崎大学も、半導体人材育成のためのセンターを開設する。工場の新設で九州では人材不足感が一層強まる。産学官組織「九州半導体人材育成等コンソーシアム」が推進役となるなどして、“新生シリコンアイランド”を支える人材を増やす。

一方、ラピダスが最先端工場を設ける北海道では、北海道大学が10月に産学官のハブとなる「半導体拠点形成推進本部」を設置。併せて熊本大の清水聖幸副学長を北大の副学長として、クロスアポイントメントにより招聘(しょうへい)した。ラピダスなど学外との連絡窓口となり、今後は熊本大とも密に連携していく。

「北海道でもオール高専で高度な半導体教育を進めたい」(国立高等専門学校機構の谷口功理事長)。道内の高専4校は、24年度から共通の半導体専門科目を設ける。ラピダスの小池淳義社長は「シリコンバレーに負けない“北海道バレー”を展開し、地域の発展などの相乗効果を出しながら推進する」として「日の丸半導体」復権の先頭に立つ。

10年で10倍養成、先端分野でトップ争う 東大・東北大・東工大が中核に

将来の技術者育成の観点では東京大学東北大学東京工業大学が中核となり、文部科学省の「次世代X―nics半導体創生拠点形成事業」で31年度までの約10年間、半導体産業をけん引する次世代人材を育てるプロジェクトが進む。

東大は半導体を自動設計するプラットフォームを考案し、開発期間とコストを10分の1に減らす。黒田忠広東大教授は「半導体を『民主化する』ことがイノベーションを加速する」として半導体人材を10倍に増やす。

東北大はスピントロニクス技術を中心に、光や神経科学、トポロジーなどを融合した新型の省電力半導体を開発する。東工大は広島大学や豊橋技術科学大学などと協力し、電気自動車(EV)や拡張現実(AR)などの新市場に向けた、環境負荷の低いグリーンな半導体をつくる。

日本ではこの20年以上、仕事を失った半導体技術者が海外に流出するなど技術の伝承や開発力が途絶えた。東工大の松澤昭名誉教授は「日本では先端技術に対する感覚が薄れてきている。先端分野で競争し、トップを争わないと本当の意味での力が付かない」と懸念する。ゼロからのスタートとなる人材育成の成否が、日本の半導体産業復活の勝負の分かれ目となる。

日刊工業新聞 2023年11月03日

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