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ロボットの進化は食品工場・飲食店に切り札になるか

ロボットの進化は食品工場・飲食店に切り札になるか

ひじきなどの和総菜にも対応できるコネクテッドロボティクスの盛り付けロボットシステム

AI・センサー威力発揮 「つかむ」動作精度アップ

食品産業や外食産業で深刻な人手不足が言われる中、解決策としての自動化ロボットの開発が進んでいる。コネクテッドロボティクス(東京都小金井市)とテックマジック(東京都江東区)は、それぞれ総菜盛り付けロボット、炒め調理ロボットを開発し、大手スーパーマーケットの総菜製造工場や大手中華料理チェーンに納入した。視触覚センサー技術を持つフィンガービジョン(同)も大手牛丼チェーンと食器洗浄ロボットの共同開発を進める。ロボットの進歩が課題解決の切り札になるかどうかが注目される。(編集委員・嶋田歩)

コネクテッドロボ 統合ライン7人▶2人に

コネクテッドロボティクスが開発したのは総菜盛り付け全工程ロボット化統合システム。容器の供給に加え、もともと開発していた盛り付けロボットシステム「Delibot」と人工知能(AI)による品位検査装置、ガス置換型トップシーラー、自動計量ラベラーなどを一連の統合ラインに仕立て上げた。生産能力は毎時800食、1ライン当たり7人を要していた製造工程を2人に省人化することに成功した。

納入先はマックスバリュ東海の長泉工場(静岡県長泉町)。Delibotではポテトサラダやマカロニサラダなど洋風総菜の定量盛り付けに加え、新たにひじきやホウレンソウのごま和えといった和総菜の盛り付けも可能にした。

外付けの容器供給機で多種多様な容器をラインに供給し、ロボットがサラダを所定の重量範囲内でつかんでトレーに盛り付ける。食材が容器に乗り上げた不良品はAIで識別し、良品だけをガス置換トップシーラーで包装する。

総菜サラダと並んで品数が多いのが弁当商品だ。弁当の具材はシューマイからウインナー、コロッケ、カットフルーツなど数十種類あり、生産時間帯によって具材の種類が頻繁に変わる。加えて、梅干しを必ず中央に置くなどの決まりもあって位置決め精度が求められ、人との協業ラインであるため、ロボットの設置スペースにも制約が生じる。フィンガービジョンは扱いが難しい具材のハンドリングを、触覚ハンドで実現した。

テックマジック 重たい鍋回しも素早く

大阪王将・西五反田店に納入した炒め調理ロボ。中華料理のメニューに合わせて加熱温度や時間などを自動調整

テックマジックの炒め調理ロボット「I―Robo」は調味料の計量から調理、洗浄までの一連の工程を自動化、回鍋肉やマーボー豆腐、肉野菜炒めなどの炒め料理を毎時60食の早さで提供できる。

2023年10月に大阪王将(東京都品川区)の西五反田店で導入を開始。中華料理の店では重い鍋をつかんで振り回すため、大人の男性でも腱鞘(けんしょう)炎になるケースが多いという。強火のガスコンロで調理するため、暑さ環境も深刻だ。I―Roboではガス火調理を電磁調理に変えることで暑さを解消し、職人が行う鍋回転動作のスピードや方向、加熱温度、時間などをメニューごとに徹底調査して再現した。

この努力が実り、西五反田店では人件費の8・5%削減と、営業利益率12%向上という大きな効果が得られた。営業利益率の向上は人件費の削減以外にも、炒め物とチャーハンのセットなど今まで提供できなかったメニューが可能になったため、客単価がアップしたのも要因だ。好成績を受け、西五反田店に続いて新たに3店舗でも導入を計画する。

フィンガービジョン 従業員の手荒れ・ケガ防ぐ

フィンガービジョンの視触覚センサー付きロボハンド。油ですべりやすかったり、柔らかい食材にも対応できる

フィンガービジョンは吉野家(東京都中央区)と、食器洗浄ロボットの開発に取り組む。吉野家の店舗では利用客が食べ終えた食器を、従業員が手で1枚1枚浸漬漕に浸し、米粒や油脂などの汚れを落ちやすくしてから食器洗浄機のラックに載せ替え、洗浄している。浸漬漕の水は濁って中身の目視確認が難しいほか、手荒れやケガの原因にもなるため自動化が求められていた。両社は視触覚ロボットハンドの活用により、濁った水で目視確認ができない点や油脂で食器が滑り落ちやすい問題の解決を目指す。

総菜向けロボットも外食向けロボットも、試験導入して使う間にいろいろな改善点が出てくる。店内レイアウトの関係でマシンが大き過ぎて入らないことや、ロボットを導入できても具材供給コンベヤーを設置できないことなど問題が発生し、専用対策が求められる。稼働率の高さもポイントだ。ランチタイムなどの書き入れ時にロボシステムが止まってしまっては、店舗側は甚大な売り上げ損失とイメージダウンを被る。フィンガービジョンの担当者は「単純な価格比較ではなく、稼働率で判断してほしい」と話す。

課題解決、現場の即戦力 浮いたコスト接客サービスに

※自社作成

低価格への要求も相変わらず強い。高性能センサーやカメラ、AIを取り付ければ自動化のレベルは上がるが、価格も高くなるため、ユーザーからは「高価なロボットシステムより、安価なアルバイトを数人雇って回した方が営業効率が良い」との考えが生じる。

ただ、アルバイトの人員は雇っても最初に店で調理法や接客を教える必要があるため、即戦力としては使えない。店舗側が来てほしい時間に、必要人数が確保できるかという問題もある。その点、ロボットならば置いたその日から使えて、繁忙時と閑散時で稼働台数を変えるなど柔軟な使い方ができる。

こうした即戦力や柔軟性の側面も考慮しなければ、アルバイトの賃金・人員とロボットシステム導入費用の回収年数との単純な計算理論に陥りかねない。アルバイトの人員は教わる側と教える側がペアで行動するため、研修期間のロスは実質的に2人分のカウントが必要だ。人の場合、急病や急な用事で仕事を休む場合がある一方、ロボットにはその心配がない。

顧客側のロボットに対する理解も進んでいる。鈴茂器工が行った「飲食業の人手不足に関する調査」では、店の機械化に賛成と答えた利用客の割合が86・4%に上った。店に対する要望では店員とのコミュニケーションや、店内の居心地の良さを挙げる声が多かった。ロボットで浮いたコストや人材を、こうした接客サービスや品質に振り向けられるかも重要になる。

日刊工業新聞 2024年04月30日

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