ヒートポンプ式エアコンに磨き。デンソーが熱マネジ注力で走行・快適性高める
電動化、事業広げる好機
電動化の進展とともに車の構造は確実に変化している。デンソーが手がけるエアコンシステムもその一つ。より快適な空調を実現するためにヒートポンプシステムに磨きをかけながら、駆動装置(パワートレーン)や電池などの熱を広く利用するエネルギーマネジメントに乗り出している。部品から機能へと事業領域を広げ、車両全体を最適化。部品メーカーも顧客目線で“うれしさ”を実現する機能の開発に力を尽くす。(名古屋・川口拓洋)
デンソーでは電気や熱エネルギーをコントロールし、走行性能の向上や省電費、快適性を実現する熱マネジメントシステムに力を入れる。同領域関連製品の生産台数は2022年に61万台だったが、25年に280万台、30年には630万台と急速な成長を計画する。
電気自動車(EV)の普及には航続距離の延長が課題だ。エンジン搭載車ではエンジンの冷却水から生まれた熱を暖房に利用していたが、EVではエンジンがなくなるため電気ヒーターが担う。ただヒーターは消費電力が大きく、走行に必要な電力までも奪ってしまう。同社はこれをヒートポンプシステムで解消。大気の熱を取り込み暖房の熱源として利用するため、消費電力をヒーターの半分から3分の1程度に抑えることができる。
デンソーが17年から量産しているヒートポンプを活用した「MC―HPシステム」はマイナス10度Cの温度環境でも高効率の暖房が可能だ。「熱は高いところから低いところに流れる。ヒートポンプのこの原理を使う」と話すのは熱マネシステム開発部の川久保昌章室長。外気温が低い場合でも、冷媒はさらに冷たいため熱の移動ができる。ただ、冷媒の密度が低下し暖房性能が落ちるため、ガスインジェクションコンプレッサーや統合弁で補う。冷媒を圧縮し、高密度の冷媒を暖房サイクルの途中でコンプレッサーに再投入し、従来比約26%の高効率化を実現する。
さらに同社が22年から量産する「TM―HPシステム」では冷媒に加えて、熱の移動に水を活用する。ヒートポンプは外気から熱を吸収するため、熱交換器に霜が付く場合がある。これが暖房性能を抑制し、電力消費を増加させる要因となる。一方、パワートレーンや電池の熱を取り除く際には水を利用する。この水を蓄熱に活用し、霜が付いた場合は水に含まれる熱で熱交換器の霜を溶かす。強い霜が付いた場合でも一時的に電気ヒーターで車内を暖房しながら、排熱と暖房熱の両方で霜を溶かす。霜が溶けた後はすぐにヒートポンプの空調に切り替えることで電力消費を抑制する。同部の加見祐一課長は「EVでは発熱機器は少ないが、車の温度をいかに吸い上げるかが重要」という。
デンソーでは個別の部品から車両全体の統合へ「熱の移動」というテーマで横串を通す。電動化は手がけていた製品が使われなくなるリスクがある。ただ、部品メーカーの役割はもはや部品の開発・生産だけにとどまらず、事業を広げる新たなチャンスにもなる。
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