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【一覧表】賃上げ、高水準回答相次ぐ…春闘集中回答の全容

【一覧表】賃上げ、高水準回答相次ぐ…春闘集中回答の全容

各企業からは、満額を含む高水準の回答が相次いだ(13日、金属労協)

2024年春季労使交渉(春闘)が好スタートを切った。デフレからの完全脱却には賃上げが不可欠との認識で労使が一致し、集中回答日の13日も満額を含む高水準の回答が相次いだ。ただ中小企業への波及は予断を許さない。一部企業で不適切な取引が露呈し、価格転嫁を通じた中小の賃上げ原資確保に影を落とす。今春闘は日銀の政策修正にも影響するだけに、取引適正化の行方も焦点になる。

デフレ脱却へ、好スタート

13日の東京・中央区の金属労協。午前中から大手企業の回答額が続々飛び込んできた。自動車や電機、鉄鋼などは満額を含む近年にない高水準の回答が相次いだ。この日を待たずに満額回答や組合の要求を上回る早期決着が散見されたが、その勢いは衰えていない。人材をつなぎ留めたい外食や人手不足の小売り・サービス業の意欲的な賃上げも顕著だ。

相場形成の主役交代も印象付けた。かつて春闘相場を主導した鉄鋼や自動車に代わり、23年に続き存在感を発揮した流通大手のイオングループ。2月下旬に主要子会社がそろって満額回答で応え、産業界の賃上げ機運を高める役割を担った。

23年春闘は約30年ぶりに3%超の賃上げが実現した。だが実質賃金は24年1月まで22カ月連続で前年同月の実績を下回る。プラスに転じるには物価高を上回るベースアップ(ベア)が欠かせない。

連合はベア相当分3%以上、定期昇給分を含む全体の賃上げ率で「5%以上」の目標を掲げる。連合が15日に公表する初回の回答状況でベアがどこまで伸長するか注目される。

中小波及、取引適正化焦点に

今後の焦点は夏にかけて賃金交渉が続く中小企業の動向だ。原材料やエネルギー価格の上昇分に加え、人件費の増加分を取引価格に上乗せする価格転嫁が進展していない。公正取引委員会は23年11月、転嫁を促す交渉指針を公表し、取引適正化を訴える。だが、こうした中で日産自動車が下請け事業者に対し、納入代金の減額を一方的に強要した実態が明らかになった。中小企業の賃上げ機運に水を差しかねず、親事業者には公取委の指針順守が強く求められる。

個人消費の停滞が懸念される。23年10―12月の国内総生産(GDP)改定値で、GDPの過半を占める個人消費は前期比0・3%減と節約志向が鮮明。今春闘での意欲的な賃上げが消費を喚起し、企業業績の改善が一段の賃上げにつながる好循環を回す必要がある。

マイナス金利、解除視野

日銀は今春闘の動向を受け、早ければ18、19の両日に開く金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除すると市場は予測する。マイナス金利政策を導入しているのは主要国では日本だけで、経団連も早期の金融政策の正常化に期待を寄せる。

日本経済は歴史的な転機を迎えつつある。「失われた30年」で停滞していた賃金・物価・金利が動き出し、日本経済が縮小均衡から拡大均衡に移行することを海外投資家も期待し、高水準の株価を支えている。こうした期待を裏切らないためにも、「歴史的な春闘」とする必要がある。

注目業界の動向

 

自動車

5%以上、早期に回答

大手自動車メーカーでは、脱炭素社会の実現や電動化といった変革期に臨むための人材確保の必要性や業績の回復などを背景に、過去最高の満額回答が相次いだ。ホンダマツダスズキいすゞ自動車は集中回答日を待たず早期に満額回答した。トヨタ自動車は13日、4年連続で満額の回答をした。

賃上げ水準はトヨタ、ホンダ、日産自動車、スズキ、マツダ、SUBARU(スバル)、いすゞが最高。賃上げ率は公表したホンダ、日産、三菱自動車、いすゞが5%以上、スズキは給与体系刷新などと合わせ10%以上。

同日会見した全日本自動車産業労働組合総連合会(自動車総連)の金子晃浩会長は「人材確保・定着に向けた共通認識と産業の魅力の向上、働く者に報いたいという気持ちが労使で合致した」と交渉の成果を評価した。

 

電機

月1万3000円続々

電機大手はベアに相当する賃金改善分について日立製作所パナソニックホールディングス(HD)、三菱電機などで月額1万3000円の満額回答が相次いだ。主要各社の労組が所属する電機連合は統一の要求水準として月1万3000円以上、妥結の最低水準を月1万円以上としていた。

13日会見した日立製作所の田中憲一執行役常務は「高い物価が続いているという認識を踏まえた回答」と見解を述べた。満額回答は3年連続、ベアは11年連続となる。

三菱電機の満額回答は2年連続。阿部恵成常務執行役は「近年にない物価高騰に対する社員の生活安定や、持続的成長に向けた人への投資の強化などを総合的に考慮」と話した。シャープの賃金改善額は非公表だが、組合の集計では月1万円と見られる。

造船・重機2

2年連続、4社満額

造船・重機大手4社はベアに当たる賃金改善1万8000円を満額回答した。2年連続の満額回答で前年を4000円上回る。三菱重工業は定期昇給、年間一時金6・1カ月分との合計で年収ベースで約8・3%の賃上げとなる。「日本社会の構造的な賃金引き上げの実現に貢献する」(三菱重工)。

川崎重工業は定期昇給との合計で2万4000円の賃上げ。賃上げ率は7・11%になりベア相当分のみでは5・33%だ。意欲がある従業員の活躍を促す。IHIは定期昇給との合計で約7%の賃上げとなる。ベア相当分のみでは約5%だ。

住友重機械工業は定期昇給、年間一時金5・8カ月分との合計で年収ベースで8・6%の賃上げになる。年間一時金は16年ぶりの満額回答となる。初任給引き上げも決め、人材確保・定着を図る。

鉄・非鉄

要求上回る回答も

鉄鋼3社は従来、要求と回答が横並びだったが今回、回答では日本製鉄が要求を5000円上回る月3万5000円、JFEスチールと神戸製鋼所は満額回答の月3万円と差が付いた。

日鉄の三好忠満執行役員は「従来、複数年交渉のため(前年度に賃金改善があった他業界との間で生じた)格差や物価上昇を総合的に勘案し過去最高額の改定とした」と語る。

非鉄大手では三井金属が組合要求を上回る月2万円のベアで2月に合意。記録の残る過去30年間で最高だった。住友金属鉱山は月2万5000円の組合要求に、月2万円のベアで回答しており、同水準は「少なくとも過去20年なかった金額」(同社)。JX金属は組合要求を上回る平均月1万5500円、三菱マテリアルも満額回答の月1万5000円で、過去最大だった。

日刊工業新聞 2024年03月14日

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