流通業界に衝撃、イオングループ賃上げの影響度
流通分野の賃上げが顕著な動きを見せている。流通や外食などが加盟する日本最大の産業別組合「UAゼンセン」の3月末時点の2023年春闘の妥結状況によると、短時間労働者は平均賃上げ率が5・68%、正社員も同4・16%といずれも過去最高の水準となった。この流れをリードしたのがイオングループで、賃上げへの活路も見いだせる。(幕井梅芳)
2月22日、流通業界に衝撃が走った。イオングループのオールサンデーユニオンが正社員の平均賃上げ率は6・16%、短時間労働者は同7・01%の満額回答で労働組合と妥結したからだ。そもそも2月での春闘の妥結は異例であまり例がない。加えて短時間労働者の賃上げ率は、UAゼンセンの統一要求方針である「6%程度」を上回る高水準の妥結だった。これを皮切りに、全国各地のイオングループが他社に先行して、満額回答で妥結していった。正社員で5―6%程度、短時間労働者については、おおむね7%を超える高い賃上げ率だった。
その動きにつられるようにダイエーやセブン&アイ・ホールディングス、すかいらーくグループなど他のグループに早期での妥結が波及していく。もちろん、労働組合側は物価上昇を背景に高い要求を掲げ、経営側は深刻な人手不足への対応も踏まえて早期かつ高額な回答を示したと言える。
4月5日に東京都内で記者会見したUAゼンセンの松浦昭彦会長は「イオングループが今春闘で賃上げのけん引役を果たした。その動きは他社の経営者に大きな影響を及ぼした。業界全体に大きなメッセージを出してもらった」と歓迎する。
イオングループは早期で高額な回答がなぜ可能だったのか。その秘訣(ひけつ)は、22年にイオングループが労働協約を結んだことにある。労働協約は賃金や労働条件、組合活動などの労使関係ルールについて、労使で約束を取り交わすこと。通常は個社の労使で結ぶことが多く、イオングループのようにグループで労働協約を結ぶのは珍しい。
この労働協約の締結から、春闘での相次ぐ満額回答を含めた高額回答といった流れについて、UAゼンセンの波岸孝典流通部門事務局長は「人権、国連の持続可能な開発目標(SDGs)などを含め、個社ではなくグループ単位で、大きな経営課題として労働条件をとらえていることが大きかったのではないか」と分析する。
個社の業績はある程度バラつきがあるものの、約56万人もの従業員を抱える大きなグループとして、賃上げの社会的要請に応える意味合いも込められている。こうした事例が他社のモデルケースとなり、労働協約を起点とした賃上げの動きが広がっていく可能性がある。