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データセンター全国分散構想、ソフトバンク・NTTが描く未来図

データセンター全国分散構想、ソフトバンク・NTTが描く未来図

ソフトバンクが北海道に構築予定のDC(イメージ)

NTTソフトバンクが次世代通信基盤を用いてデータセンター(DC)を全国に分散配置する構想を打ち出した。通信技術や端末の進化でデータ通信量は飛躍的に増加。データ処理用のサーバーやネットワーク機器があるDCの電力消費量も増え続けている。大容量データの超高速通信が可能な次世代通信基盤を用いて土地や再生可能エネルギーの確保が容易な地方にDCを分散配置。都市部でのDC一極集中を回避し、サステナブル(持続可能)化を目指す。(編集委員・水嶋真人)

ソフトバンク 北海道に第3の中核拠点―26年度開業用

「現在のインフラは次世代を支えるには大きな課題を抱えている。北海道や九州など再生エネの豊富な地域にDCを分散配置する構想でこの課題を解決する」―。ソフトバンクの宮川潤一社長は、次世代社会インフラを具現化し、自社の企業価値を向上する戦略をこう説明する。

同社によると、日本のデータ処理需要は2030年に1960エクサフロップス(毎秒100京回の浮動小数点演算性能)と、20年の6エクサフロップスから急増する見込み。大型火力発電約6基分の電力を必要とするが、火力発電の増設は温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出増につながる。宮川社長は「AIデータ処理の需要増と地球温暖化対策を両立できるような新たなインフラの構造作りが必要だ」と指摘する。

宮川社長が参考にしたのは、中国が21年から5カ年で約60兆円を投じる全国一体のコンピューティング網発展計画「東数西算プロジェクト」だ。自然エネルギーが豊富で再生エネ導入の潜在能力が高い中国西部にグリーンDCを設置。人口が集中する中国東部で生成された膨大なデータを西部のグリーンDCで処理する仕組みで「すでに相当数のDCが中国西部で作られている」(宮川社長)。

ソフトバンクの宮川潤一社長(右)は2月22日、北海道の鈴木直道知事と、再生エネ・DCの活用などで北海道を活性化する連携協定を結んだ

一方、日本で再生エネ導入の潜在能力が高い地域は北海道や東北、九州地方だが、データ処理は東京と大阪の近郊に集中している。都市部は大規模DCを設置可能な土地や再生エネの確保が困難になりつつある。地方で生み出した再生エネを都市部に届けるのも送電網の容量が課題となり現状では難しい。それだけに、地方へのグリーンDCの分散配置がサステナブル社会の実現への有効な手だてとなる。

ソフトバンクはこの構想の一環として、北海道苫小牧市に大規模な計算基盤などを整備したDCを新設し、26年度の開業を目指している。当初は受電容量50メガワット(メガは100万)だが、将来は300メガワットに拡張。敷地面積を国内最大規模の70万平方メートルにして東京、大阪に並ぶ新たな中核拠点とする。

再生可能エネルギーの導入ポテンシャル

さらに、全国に分散したDCをあたかも一つのDCようにみなすことができる「超分散コンピューティング基盤」の開発も進める。全国に分散したDCとDCをつなぐ省電力で大容量の光電子結合網を全国展開した。光信号から電気信号にデータを変換することなく通信を行うことで消費電力を従来の約10分の1に抑制できる。

ソフトバンクが通信事業で利用する約20億キロワット時に相当する電力の全量を再生エネで確保する契約も電力事業者と結んだ。AIの管理・運用体制の強化に向け、外部有識者を招いた「AIガバナンス委員会」を4月に新設する。「AIとの共存社会の中で最も必要とされる会社を目指して、長期的な視野で戦略的な取り組みを進めていく」(宮川社長)考えだ。

NTT 次世代光基盤用い一体運用

NTTは次世代光通信基盤の構想「IOWN(アイオン)」の構成要素で、ネットワークから端末までを光で結ぶ低遅延通信技術「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」を用いた分散型DCの構築を始める。23年度中にNTTグループが東京や大阪に持つ複数のDCをAPNで接続。島田明NTT社長は「24年度から地方のDCもAPNで結ぶことで離れたDC間をリアルタイム連携し、あたかも一つのDCとして利用可能にする」と意気込む。

NTTのAPNを用いた分散型DCのイメージ

すでに、米レッドハットや米エヌビディア、富士通と連携し、複数の監視カメラの映像を約100キロメートル離れたDCでリアルタイム分析する技術を開発した。具体的には、NTTの横須賀研究開発センタ(神奈川県横須賀市)にある大都市を模した監視カメラ設置拠点の映像データを、APN経由で約100キロメートル離れた武蔵野研究開発センタ(東京都武蔵野市)内の郊外型DCに伝送。同DC内にあるエヌビディアの画像処理半導体(GPU)を使ってリアルタイム分析する実証を行った。

これにより、大都市にある膨大な数の監視カメラの映像データを土地や電力の調達が容易な郊外のDCに伝送し、AIで分析可能にする。26年度の商用化を見込む。

NTTアノードエナジーのエネルギー流通基盤

再生エネの調達や需給の最適化に向けた基盤作りも進んでいる。NTTアノードエナジー(NTT―AE、東京都港区)は23年5月に国内火力発電最大手のJERAと組み、風力発電などを手がけるグリーンパワーインベストメント(GPI、東京都港区)を共同買収すると発表した。これにより「30年の再生エネ電源を約180万世帯の年間電気使用量に相当する約80億キロワット時に引き上げる目標の達成にめどを付けた」(岸本照之NTT―AE社長)。

NTT―AEは再生エネを集約して需給を調整するアグリゲーション事業の推進に向け、エネルギー流通プラットフォーム(基盤)の構築も始めた。NTTグループのAIやデジタルツイン技術を用い、再生エネの発電量や電力市場の取引価格を予測するエンジンを提供する。再生エネが生み出した電力をためる蓄電池の充放電を制御する最適化エンジンも使い、再生エネの普及や電力システムの効率化を支援する。

NTTは30年にDCと携帯通信でカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現を目標に掲げる。分散型DCなどに地産地消型でグリーン電力を安定供給する基盤の構築で循環型社会の実現を目指す。

日刊工業新聞 2024年3月5日

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