マイクロ波で環境負荷低い「炭素繊維」製造、三井化学などビジネスモデル確立へ
「直接加熱」を実証
三井化学とマイクロ波化学はマイクロ波を用い、環境負荷が低い炭素繊維(CF)製造技術の実証を本格化させる。三井化学の名古屋工場(名古屋市南区)に実証設備を完成させ、1月に試運転を始めた。2024年度中のサンプル供給を目指す。製造時のエネルギー消費量を半減できるなどの特徴を持つCFの実証を進めつつ、幅広い形のビジネスモデル確立も検討する。(山岸渉)
CFの製造工程には繊維を200度―300度Cで加熱し酸化させて耐熱性を付ける「耐炎化」と、1000度―2000度Cで加熱して炭素化する「炭化」の2段階がある。どうしてもエネルギー消費量が多くなることなどが課題だった。
マイクロ波化学の新技術「カーボン―MX」は電子レンジに使われる電磁波のマイクロ波を使い、直接繊維を加熱するもの。炉全体を加熱しないため、エネルギー利用を効率的にできる。また再生可能エネルギー由来電力の利用により90%以上の二酸化炭素(CO2)排出量削減も可能と期待されており、今回の大型実証設備で確認したい考えだ。加熱時間の大幅な短縮や装置の小型化、安全性向上にもつながるとみる。
マイクロ波化学の塚原保徳取締役CSO(最高科学責任者)は「マイクロ波のデザインを深掘りし、どのようにすれば大型化できるかなどを約16年かけて確立してきた」と力を込める。今回の大型化や長期運転の中での課題などを確認しつつ、まずは24年度中のサンプル提供を目指す。
一方の三井化学は実証を通じ、環境負荷を低減できるCFのビジネスモデルを検討する。CFは軽量で剛性が高い点が強みだ。マイクロ波の活用でCO2排出を大幅に削減できる製造法が加われば、脱炭素対応の重要性が求められる中で製品としても差別化できる。CF自体の販売に加え、CFとポリプロピレン(PP)を複合化したUDテープ「タフネックス」やCF強化コンパウンドでの採用を想定する。
CFは東レと帝人、三菱ケミカルグループが世界シェアの上位を占めているものの、中国勢が激しく追っている状況だ。三井化学繊維強化複合材チームの宮田篤史チームリーダーは「軽量で強い炭素繊維複合材(CFRP)がモビリティーに関わらずニーズが高い。汎用をターゲットにマーケットを広げていくことが重要だ」と語る。他のCFメーカーとの連携やライセンス供与などさまざまな可能性も視野に入れつつ、マイクロ波化学とともに実証に臨む。
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