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どんなところも手を抜かない 「技術は正しく」を守りながら 研削加工現場の進化を支える

岡本工作機械製作所

岡本工作機械製作所は、幅広い製品ラインナップや加工精度の高さ、グローバルな生産体制など多面的な強みをもつ研削盤メーカー。近年はモータコア金型向けの門型平面研削盤や脆性材加工向けのロータリー研削盤などでユーザーの注目を集めている。人手不足を背景とした自動化・省力化のためのオプション機能を積極的に提案するなど、ユーザーニーズの取り込みにも余念がない。研削盤の開発を担う技術開発本部製品開発部では、「技術は正しく」という社是を心にとめながらそれぞれの技術者が業務に向き合う。顧客の要望を実現するための細かなカスタマイズやメンテナンス性の良い機械構造に、それが現れている。魅力ある製品を生み出すための取組みや将来展望を4人の技術者に聞いた。

―研削盤メーカーとしての特徴や強みを教えてください

𡈽橋 当社は「総合砥粒加工機メーカー」を自負しており、研削盤の幅広いラインナップが特徴です。主力の平面研削盤は、ごく小さいサイズから大型まで用意していますし、成形研削盤、円筒研削盤、内面研削盤、ロータリー研削盤、創業時から手掛ける歯車研削盤などもラインナップしています。また遊離砥粒を使う砥粒加工機として、半導体ウエハを平坦化するためのポリッシングマシンも製造しています。

松岡 研削盤の製造過程では、「きさげ」による精度の合わせ込みを重視しています。滑り摺動面にきさげを施すことはほかのメーカーでもされていると思いますが、当社では小型機から大型機まで機械の特性に合わせたきさげを実施しています。たとえば、小型機の例では「傾向付け」をきさげによって行います。左右に長いテーブルを凹型に傾向付けることにより、重いカバーを載せたテーブルが左右に移動したときにも精度が維持できるよう調整します。機械加工では再現できない、現場での合わせ込み技術が当社の強みと言えます。

―グローバルな生産体制も構築してきました

𡈽橋 安中工場(群馬県安中市)に加え、シンガポールに汎用機の製造工場があり、タイでは鋳物製造から部品製造、組立てまでを一貫でできる体制を構築しています。中国は従来、主要部品を輸入して組み立てるノックダウン方式で生産していましたが、2023年秋に機械加工から塗装までの一貫生産をスタートしました。

―鋳物を社内で製造するのは珍しいと思いますが、そのメリットは?

松岡 納期や価格の面で有利ですし、設計変更が必要になったときも柔軟に対応できます。

小柏 私は当社の機械に、「鋳物を贅沢に使った“どっしり”とした研削盤」というイメージをもっていますが、これは鋳物を内製しているからこそ可能です。機械剛性では絶対に負けないという自信があります。

―研削盤の最近の売れ筋は?

小柏 モータコア金型向けでは、2010年頃に発売した精密門型平面研削盤「PSG-CHiQ/UPG-CHLi」が売れ筋商品です。また、半導体製造装置部品向けでは、セラミックスやガラスなど脆性材加工をターゲットにした製品として、横軸ロータリー研削盤「PRG」や立軸ロータリー研削盤「VRG6DX」、ワークの外周、内周、端面などを1チャッキングで加工できるグラインディングセンタ「UGM64GC」を販売しています。この分野も近年、ニーズが高まっています。

立軸ロータリー研削盤 「VRG6DX」

―主力の平面研削盤に絞らず、さまざまな種類の研削盤を製造しているのはなぜですか

松岡 やはり、それが当社のもち味なのだと思います。機種を絞った方が「かゆいところに手が届く開発」ができるのは事実。ですが、会社として総合砥粒加工機メーカーという立ち位置を重視していますし、ユーザーにとっても多種類の機械を同じ操作画面で操作できる方が使いやすいという利点があります。

脆性材加工、自動化のニーズ高く

―最近のユーザーニーズや、ニーズに対する御社の取組みを教えてください

小柏 先ほども申し上げたように、半導体製造装置部品に使われる脆性材加工のニーズがあります。提案の1つとして、横軸ロータリー研削盤PRGの開発に取り組みました。もともと金属加工用の研削盤だったのですが、セラミックス加工で問題になる点をクリアするためにさまざまな改造を施しています。たとえば、セラミックスを削って出る削りくずは乾燥すると石のように固まってしまいます。それを防ぐための注水装置やフィルタを設置しました。また、セラミックスは従来のマグネットチャックでは保持できないので、真空チャックを新たに採用しました。

―近年の展示会では、自動化や省力化への提案も積極的に行っていますね

小柏 人手不足を背景に自動化へのニーズも強まっています。このニーズに対応する研削盤のオプションとしては、機上計測システム「Quick Touch」や、全自動研削システム「MAP研削ソフト」があります。

―それぞれどんな機能ですか

松岡 Quick Touchは、ワーク測定に必要なGコードでのプログラム入力を不要にする機能です。加工と測定のサイクルを完全に自動化することもできますし、「ちょっと厚みを確認したい」というときも、プローブを接触させるだけで簡易的に測定できる。いずれの場合も、ワークを外して別の場所で測定するのにかかっていた時間を節約できます。

𡈽橋 MAP研削ソフトでは、まず研削前のワークの高さをタッチプローブで測定し、ワークの高低を把握します。そこで得られたデータをもとに、ワークの高い場所から削っていくことで、加工時間の短縮が図れるというものです。門型平面研削盤UPG-CHLiや成形研削盤「HPG500NC」でタッチプローブの搭載が増えていて、加工開始から測定、追加工までの時間を大幅に短縮できたという声もいただいています。また、計測の自動化以外に、ロボット搭載台車を使ったワークやといし交換の自動化にも、ノウハウをもつ企業と連携して取り組んでいます。

見えない部分までていねいに

―話は変わりますが、皆さんが所属している製品開発部の紹介をお願いします

𡈽橋 製品開発部は工作機械の研削盤開発を行う部署で、機械設計1~4課、製品開発課、電子課の6つの課があり、約50人が所属しています。機械設計1~4課が機械設計を担い、電子課が電気設計を、製品開発課は新製品の精度確認や設計用ソフトの入替えなど設計支援業務を行います。

―機械設計1~4課はどのように役割分担をしているのですか?

山田 機械のサイズで分かれています。私の所属する3課では、コラム型と呼ばれる中型の平面研削盤の機械設計を行っています。テーブルサイズで左右1.2~3mの機械です。4課は左右1.5~10mの大型機を、1課は当社でサドルタイプと呼ぶ小型機(PSG-GXシリーズ、SA1シリーズ)を、2課は円筒研削盤や内面研削盤を担当します。

―研削盤の機械設計ではどんなことを大切にしていますか

山田 顧客視点の設計を心掛けています。私は現在、ベースとなる製品に対するカスタマイズ対応を主に行っています。お客様の中には、カタログにないサイズ、仕様を要望される方もいます。中には対応が難しいケースもありますが、打合せを重ねながら、できるだけ要望に沿えるよう努めています。

小柏 古い技術と新しい技術のバランスを意識しながら設計しています。昔の研削盤の図面を見ると、精度を出すために先人がさまざまな工夫をしていることがわかります。鋳物構造1つとっても工夫があるのです。一方で、新機種の開発ではサイズや機能など新しいニーズも取り込まないといけません。先人が残した良い部分は残しつつ、ユーザーニーズに合わせて変えるべきところは変える、そのバランスが大事だと思っています。

―御社は社是として「技術は正しく」を掲げています。設計者としてどう理解していますか

小柏 捉え方は人それぞれだと思いますが、個人的には設計業務で迷ったときに「技術は正しく」という言葉を思い出すようにしています。研削盤には、お客様が普段見ない場所、触らない場所があります。設計ではそういう場所をどう処理するか迷うことがあるのですが、お客様が見ない場所でも、メンテナンスでサービスマンが触ることなどを考えて作業性に配慮します。図面を書く際の細かなルールを守る、わずかな不具合にもきちんと対応するといったことも、「技術は正しく」の例だと思います。

𡈽橋 設計者であれば、計算すべきところをきちんと計算する、解析すべきところを解析するのは当然です。「1つひとつのことに真面目に取り組む」という姿勢を示している言葉だと思います。私自身も設計する際は、「ここはどうしようか」と自問自答しながら進めています。

―皆さんが「技術は正しく」の姿勢を今も大切にしていることがわかりました。一方で、設計手法には変化があるのでしょうか

𡈽橋 2006年頃から3次元CADの導入を進めています。それによる変化として、2次元CADで設計していた頃は必要な計算をした後、試作機をつくり、それに対して性能を評価することが多かったのですが、3次元CADを導入してからは、設計中に強度解析を行って、不具合の原因になりそうな個所を事前に直していくようになりました。

―変化を実感できていますか

山田 そうですね。以前は試作機ができた後に、「強度不足だから対策してほしい」と言われることがありましたが、強度解析を取り入れるようになってからそういうケースは減っています。

グラインディングセンタ「UGM64GC」

人手不足やSDGsへの対応がカギ

―御社には80年を超える研削盤づくりの歴史があります。長い歴史の中で転換点になった機種は何だったのでしょうか

𡈽橋 当社は創業者である岡本覚三郎が「日本で今までに製作されていない歯車関係の機械をつくる」という目的で設立しており、もともとは歯車研削盤でスタートした会社です。そこから1953年に国産初の平面研削盤「PSG-6型」を製作するようになったのが、大きな転換点だったと思います。当社は戦後すぐの頃、紡糸用歯車ポンプを製造していた時期があり、社内で使う平面研削盤や内面研削盤を内製していました。その技術を活かして平面研削盤を外販するようになったことが、PSG-CHiQ/UPG-CHLiといった近年のヒット商品や「平研のオカモト」と呼んでいただける現在の当社の姿につながっています。

それでは、10年後にはどんな研削盤が求められていると思いますか

小柏 人手不足を背景に、自動化のための機能が研削盤でもより一般的になるのではと思います。また同じ理由でスキルレスも求められるでしょう。自動化・スキルレス化には当社も取り組んでいますが、操作盤をさらに使いやすくした機械やロボットと組み合わせた機械、といし選択や段取り作業をサポートしてくれる機械など、ベテラン作業者でなくても加工できる機械が今以上に求められるのではないかと考えています。

山田 人手不足という面では、メンテナンスフリーの要望も高まってくると予想しています。たとえば、定期的な削りくずの掃除を自動化できる機能があれば、ニーズがあるのではと思います。

松岡 SDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりから、廃油処理が不要な油圧レス構造の研削盤も需要が見込めます。稼働停止中の電力消費を抑えるような、省エネ技術の開発も進めていく必要があります。

―最後に、これからも競争力のある製品を提供し続けるために、どのような姿勢で製品開発に取り組みますか

𡈽橋 技術者が「これがいい」と思って製品化しても、お客様に受け入れられなければ意味がありません。やはり、市場のニーズ、お客様の要望を上手に汲み取って反映させないと、最終的に良い機械にはならないのです。この点を意識して今後も製品開発を進めていきたいと思います。

左から製品開発部 機械設計4課 課長 𡈽橋 篤氏、製品開発部 機械設計4課 小柏 英城氏、製品開発部 機械設計3課 係長 山田 純也氏、製品開発部 製品開発課 課長補佐 松岡 邦宜氏

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