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地政学リスク一段と高まる…日本企業はどうするか、急がれる事業戦略の立て直し

地政学リスク一段と高まる…日本企業はどうするか、急がれる事業戦略の立て直し

日本企業の供給網をめぐる環境も不安定さが増している(イメージ)

2024年は地政学リスクが一段と高まる年となりそうだ。1月の台湾総統選を皮切りに主要国で重要選挙が相次ぎ、11月には米大統領選挙が控える。トランプ前米大統領が再選すれば対ロシアや気候変動対策の方針が覆され、企業活動の前提が大きく崩れる恐れがある。米中対立に伴う世界経済の分断も懸念される中、日本企業はサプライチェーン(供給網)をどうつなぎ合わせて強靱(きょうじん)化するのか。事業戦略の立て直しが急がれる。(編集委員・田中明夫)

重要選挙相次ぐ 米大統領選、最大の焦点

※自社作成

24年は世界情勢を大きく左右する重要選挙が続く。1月の台湾総統選では中国と対立する与党・民進党の候補が勝利すれば台湾海峡の緊張が高まるほか、3月のロシア大統領選挙では当選が確実視されるプーチン氏の言動が注目される。

4―5月は全方位外交で存在感を増すインドで総選挙があり、グローバルサウス(南半球を中心とする新興・途上国)の中核をなす同国の政治・経済の行方への関心が高まる。6月の欧州議会選では環境対応に消極的な右派が台頭すれば「サステナブル(持続可能な)政策が変調する可能性がある」(住友商事グローバルリサーチの住田孝之社長)との見方がある。

最大の注目は11月の米国大統領選挙だ。民主党はバイデン大統領が立候補を表明する一方、共和党はトランプ前大統領らが名乗りを上げた。北大西洋条約機構(NATO)からの脱退意向があるとされるトランプ氏が当選すればウクライナ支援が打ち切られかねないほか、石油業界の支持を得るため電気自動車(EV)の推進策が後退し得る。

米国はトランプ前政権時代に地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱したのち、バイデン現政権が同協定に復帰した経緯がある。トランプ氏当選によって、米国の脱炭素政策を頼りにした事業投資の前提が再び覆される恐れなどがあり「企業はしっかりシミュレーションして備える必要がある」(日本貿易会の国分文也会長〈丸紅会長〉)との見方がある。

非西側諸国への進出競争加速

※自社作成

日本企業の供給網を巡る環境も不安定さが増している。生産・消費の一大拠点である中国経済が、米国との対立による経済不安や不動産不況などを背景に失速し、成長著しいグローバルサウスで供給網の再構築を図る動きが活発化。ロシアや中国の接近など地政学リスクを抱えながらも、世界の国内総生産(GDP)の約5割を占めるまでに成長した非西側諸国への進出競争が加速している。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の23年版海外進出日系企業実態調査によれば、今後1―2年で中国事業を「拡大」すると回答した企業割合は比較可能な07年以降で始めて3割を下回った。一方、インドでは「拡大」の回答割合が75%、ブラジルは68%、南アフリカは57%とグローバルサウスでの事業投資には積極的な姿勢がみられる。ジェトロの石黒憲彦理事長は「旺盛な内需が進出企業の業績を後押しして事業拡大意欲が高まっている」と指摘する。

※自社作成

ただ中国事業について「第三国への移転・撤退」と回答した割合は0・7%にとどまる。「(中国経済の成長が鈍化し)これまでの明るい見通しは持てなくなっているが、依然として巨大な市場をふんばって確保したいという意識は強い」(ジェトロの石黒理事長)とみられている。

日本企業は中国市場を簡単に手放すことはできない一方、新興国市場では欧米や中国企業を含む開拓競争が活発化している。地政学リスクの高まりも伴って経済構造が複雑化する中では「リスクを序列化し、(当事者にとって)本当に重大なリスクを認識することが大事」(住友商事グローバルリサーチの住田社長)とされ、供給網の強靱化に向けて企業は重大局面を迎える。

日刊工業新聞 2024年01月01日

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