水素・ペロブスカイト・洋上風力…GX実現へ政府が策定、13兆円分の投資戦略の全容
長期支援、民間投資呼び込む
政府はグリーン・トランスフォーメーション(GX)実現に向けた投資戦略を策定した。水素と天然ガスなど既存燃料との価格差を補う支援として、15年間で3兆円規模を投じる。鉄鋼や化学といった温室効果ガス(GHG)排出量の多い製造業には、10年間で1兆3000億円規模を充てる。複数年にまたがって大規模な予算を投じることで民間投資の予見性を高め、GXを推し進める。
このほど開いたGX実行会議で決定した。政府はGX投資を支援するため、2023年度から10年間で20兆円規模のGX経済移行債の発行を目指している。今回はこのうち、支援内容が見通せる約13兆円分の戦略をまとめた。通常の予算では単年度や3―5年程度の短期間の支援が中心だが、長期方針を示すことで民間投資を呼び込む狙いだ。
水素の値差支援では既存燃料と比較して割高な水素を価格面で支援し、普及を促す。製造業への支援では鉄鋼、化学、紙パルプ、セメントの4業種について、電炉やケミカルリサイクルなど、二酸化炭素(CO2)排出量が少ない製造プロセスへの転換などに向けた設備投資支援を想定する。
また、次世代太陽電池として期待される「ペロブスカイト太陽電池」や、浮体式洋上風力発電といった次世代再生可能エネルギー分野に、10年間で1兆円規模を確保する。サプライチェーン(供給網)構築や設備投資などを支援し、産業育成につなげる。持続可能な航空燃料(SAF)の製造やサプライチェーン整備支援には、5年間で約3400億円を充てる。
このほか、GX投資に関する金融支援や、排出量取引制度の運営などを行う「GX推進機構」の設立に関して、24年夏に業務を始める見通しも示した。24年度当初予算では、債務保証などの金融支援業務に必要な資金として、1200億円を計上している。
今回の戦略の最大の特徴は、長期にわたって分野ごとの濃淡もつけながら、大胆な規模での投資を決めたことだ。通常の予算編成では短期の施策が中心となり、50年の脱炭素を目指し社会構造を転換させるGXの支援をカバーしきれない課題があった。新たにGX移行債を発行、活用することで、長期の支援を打ち出しやすくなった。
また投資原則に「経済成長や国内投資拡大につながるものを対象にする」と掲げているのもポイント。GXで新たな産業振興と経済成長を実現させる意図を明確にした。
例えば24年度の与党税制改正大綱には、製造時のGHG排出量の少ない「グリーンスチール」や、植物原料など再生可能資源やその副産物を利用した「グリーンケミカル」、SAFなど脱炭素製品の生産・販売量に応じて税を優遇する「戦略分野国内生産促進税制」の創設を盛り込んだ。税制とGX支援を組み合わせ、脱炭素と国内投資促進の両立を狙う。
サプライチェーン全体での脱炭素に向け、中核を担う中堅・中小企業についても、相談窓口の拡充や今後3年間で7000億円の設備投資補助を実施。スタートアップの先進的な脱炭素技術を、積極的に活用できる仕組みの構築も視野に入れる。将来的にはこうして培ったGXの実績や枠組みなどを、アジアに展開していきたい考えだ。