ニュースイッチ

売上高1兆円へ…三菱重工の「防衛事業」急拡大、今後の焦点は?

売上高1兆円へ…三菱重工の「防衛事業」急拡大、今後の焦点は?

三菱重工は多様な製品で国防を支える(護衛艦「もがみ」)

三菱重工業の防衛事業が急拡大期に入る。政府が国防強化のため防衛予算を大幅に増やすことを背景に受注が伸びており、2027年3月期までに宇宙を含む事業売上高を現状の2倍の1兆円規模に拡大する計画だ。日英伊3カ国による次期戦闘機共同開発への参画という長期の重要案件にも取り組む。人員や投資を順調に増やし、急拡大に対処できるかが焦点となる。(戸村智幸)

予算増追い風、受注大幅上振れ

「おおむね5000億円から伸びていないが、防衛費倍増を受け、2倍の1兆円規模に伸ばしたい」―。江口雅之執行役員防衛・宇宙セグメント長は力を込める。三菱重工は戦闘機、ミサイル、戦車、艦艇と多様な製品で国防を支えるが、防衛・宇宙セグメントの売上高はこの10年、5000億円弱で伸び悩む。防衛省向けがほとんどで予算額に依存するためだ。23年3月期は4749億円だった。

だが状況は一変した。東アジア情勢の緊迫化を受け、政府は22年12月策定の27年度までの5カ年の防衛力整備計画で、防衛力整備事業費を約43兆5000億円と23年度までの前計画の2・5倍に高めた。スタンド・オフ防衛など七つの重視分野があり、三菱重工の製品は全て関係する。

日本の防衛力整備計画に沿った三菱重工の取り組み

効果は既に受注に表れている。スタンド・オフ防衛など複数の大型案件を受注したことにより、11月には24年3月期の「航空・防衛・宇宙」部門の受注見通しを従来予想比8000億円増の1兆8000億円に引き上げた。上振れの大部分は防衛だ。

25年3月期以降も高水準の受注を見込む。受注が売上高に貢献するのは3―4年後のため、27年3月期には1兆円に達するとみる。28年3月期からの3年間は1兆円以上で推移する見通しだ。

課題は受注拡大に対応する体制作りだ。防衛事業には6000―7000人の人員がおり、これを2―3割増やす方針だ。設備投資は現状、年間数十億円投じており、金額を積み増す。

人員は航空宇宙や機械工学のエンジニア、IT、電気機器の人材が必要とみる。新卒や中途採用を増やすが、まずは他の事業から配置転換する。日本の産業界が人手不足に悩み、社内も好調な事業からは人員を補充しづらい。必要な人員を確保できるか問われる。

次期戦闘機共同開発、MSJの技術者活躍

社内人材では期待をかける集団がいる。2月に開発から撤退した小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」の技術者たちだ。既に防衛事業に転籍し、次期戦闘機開発やスタンド・オフ防衛に携わっている。江口執行役員防衛・宇宙セグメント長は「航空宇宙は民間も防衛も似ており、ほぼ即戦力。構造、機械、電気の設計などさまざまな分野で活躍している」と手応えを見せる。

防衛省による次期戦闘機イメージ

次期戦闘機は英防衛大手BAEシステムズ、伊防衛大手レオナルドと共同開発する。35年の引き渡しを目指しており、航空自衛隊のF2戦闘機の後継機になる。F2は日米共同開発だが、日本は下請けの立場だった。「欧州と完全に対等に共同開発するというこれまでと違う経験を積める」(江口執行役員防衛・宇宙セグメント長)ことに今回の意義がある。

社内の戦闘機開発・生産の知見やノウハウを次世代に引き継ぐ効果も期待できる。若手エンジニアが次期戦闘機で経験を積むことが技能伝承になる。

防衛事業の視界はおおむね良好だが、次期戦闘機をはじめ、最先端の開発にはリスクが付きものだ。三菱重工はこの10年、防衛省と要素技術を研究するなどリスク対策に取り組んでいるが、ゼロにはできない。民間と防衛の違いはあるが、挫折したMSJの例もある。トラブルや遅延なく開発できるか、真価が問われる。

インタビュー/国の要請にしっかり応える

泉沢清次社長に防衛事業の長期展望を聞いた。

―売上高1兆円が見えてきました。どうとらえますか。

「防衛の世界は非常に難しいところがある。国をどう守るかという議論があって、必要な装備品が決まり、我々に発注される。売上高が多ければ良いと思っていないし、少なければ良いとも思っていない。防衛のリーディングカンパニーと自負しているので、国の要請にはしっかり応える。予算が増えれば、我々の売上高も増えるので、しっかり対応できる体制を作る」

社長・泉沢清次氏

―事業拡大に向けて人員や生産能力をどう増やしますか。

「直近で一番先に手を打たなければなならないのがリソース確保だ。設計を含め、検討する側のメンバーを手厚くする必要がある。社内からの融通や中途採用といろいろ手を打つ。MSJのエンジニアの多くは次期戦闘機など防衛に移った。いままでにない経験や実績を積んでおり、非常に優秀だ。設備投資は現時点で決めたものはない。製造段階に入れば、生産設備を増強しなければならない。(防衛事業の愛知県内の工場である)小牧や大江が選択肢に入る」

―次期戦闘機が開発・製造に入った時に担当したい役割は。

「どの部位を担当したいというより、日本が得意なところを生かし、3カ国の中で役割を果たしたい」

―サプライヤーの撤退が懸念される中、どう支援しますか。

「我々が聞いている範囲で、彼らが一番関心があるのが予見性だ。事業の予見性をどう高めるかが大きなポイントだ。具体的なサポートとしては、(制度創設が検討されている)セキュリティー・クリアランス(適格性評価)は1社では対応できないので、相談に乗る」

―サプライヤーの利益率が低い問題がある中で、そうした企業を買収する可能性は。

「ケース・バイ・ケースだ。それぞれの企業が得意なものを持っている。我々に取り入れた方が良いのか、取引を通じて支援した方が良いのか。政府が防衛産業の利益率を高める方針なので、サプライヤーも利益率は上がっていく」

―防衛省が企業側の利益率を向上させる方針を示しました。受け止めは。

「無尽蔵に増やせるわけではないので、我々として努力し、必要なコストで必要な利益を稼ぐ。しっかり作ることは変わらない」

日刊工業新聞 2023年12月12日

編集部のおすすめ