発電実証設備を稼働した三菱重工、「水素サプライチェーン」のハブになれるか
三菱重工業が世界シェア首位のガスタービンの脱炭素に向け、水素で燃焼する製品開発を加速している。天然ガスへの混焼、水素のみの専焼に対応した製品を商用化するため、ガスタービン生産拠点の高砂製作所(兵庫県高砂市)に実証設備「高砂水素パーク」をこのほど稼働させた。水素の製造・貯蔵も行い、ガスタービンによる水素発電までの一連のサイクルを実証し、水素の総合力を培う狙いだ。(戸村智幸)
ガスタービンは天然ガス火力発電の主要機器。三菱重工は蒸気タービンと組み合わせて2重に発電するガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)を得意とする。脱炭素のため石炭火力から天然ガス火力に移行する需要を取り込み、2022年にガスタービンの世界シェア首位を達成し、23年1―6月も首位を維持する。
23年3月期連結業績の事業利益の44%をガスタービンなどのエナジー部門が稼ぎ、同社のけん引役でもある。
ガスタービンは燃焼器の交換と燃料系統の追加により、水素で燃焼できるようになる。泉沢清次社長は「研究開発は非常に順調で、実用化に進んでいる」と手応えを見せる。
高砂水素パークでは、23年中に出力45万キロワット級の大型製品で水素30%の混焼を試験する。24年には50%の混焼を目指す。同4万キロワット級の中小型製品では24年に専焼を試験する。専焼での商用化時期は、大型製品は30年以降、中小型製品は25年を目指している。
自前で水素を製造・貯蔵し、ガスタービンに供給する体制も整える。まずはノルウェー企業のアルカリ水電解装置を活用するが、24年春には開発中の固体酸化物形電解セル(SOEC)を導入する計画だ。開発済みの固体酸化形燃料電池(SOFC)と逆に、電気を流して水素を取り出す仕組み。メタンの熱分解によるターコイズ水素の製造も26年ごろに実証する計画だ。
東沢隆司シニアフェロー、エナジードメインGTCC事業部長は「効率性が高く、大容量化できる」と自社技術に自信を示す。貯蔵については、3・5トンの貯蔵能力を24年に11トン程度に高める。
製造・貯蔵を含めて一気通貫で実証することで、水素ガスタービン単体ではなく、水素のサプライチェーン(供給網)全体で事業化できる。脱炭素に向けたエネルギートランジション(移行)事業では、「モノづくりを基軸にハブになる」(泉沢社長)戦略を志向しており、高砂水素パークで実践できるかが問われる。
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