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外形標準課税の拡大、総務省と経産省・商工団体で「バトル」の様相

外形標準課税の拡大、総務省と経産省・商工団体で「バトル」の様相

外形標準課税の対象を拡大すると、中小企業やスタートアップに悪影響が出る懸念がある(イメージ)

年末まで税調議論、長期戦の可能性も

与党税制調査会の議論が本格化した。争点の一つが「資本金1億円超」を基準としている外形標準課税の適用拡大だ。総務省は「資本金と資本剰余金の合計」が一定額を超えた場合、課税することを求めている。資本金を1億円以下に減らし、税負担を逃れる企業の動きを防止したい意向だ。一方、経済産業省や商工団体は中小企業に影響が及ぶとして、一様に反対の姿勢を崩していない。議論は関係者を巻き込んだ「バトル」の様相を呈している。(小林健人)

経産省は「大企業が減資や分社化によって外形標準逃れを行うことへの対策は必要だ」と外形標準課税の見直しに一定の理解を示す。ただ反対の声も強い。経産省の幹部は「(外形標準課税の見直しは)そもそも議論にならない。絶対に認められない」と語気を強める。厳しい姿勢は経産省が作成した資料にも現れている。「企業の負担感は極めて大きい」「見直し案は容認できない」など、総務省の主張に強い言葉で反論する。経産省の職員はこの資料を手に関係者への説明を繰り返す。

外形標準課税は都道府県が企業に課す法人事業税の一種で、所得ではなく資本金など企業規模に応じて徴収する。所得に対する課税と比べ、景気に左右されにくい安定的な財源として2004年度に導入された。赤字法人にも課税されるため、規模の小さい中小企業への配慮として「資本金1億円超」法人を対象とする。15年度、16年度からは外形標準課税の割合を高め、法人事業税のうち8分の5とした。

総務省/ “合計50億円” 新基準

総務省が問題視するのは資本金を減資し、資本剰余金へ振り替えたり、事業部門の分社化時などに際し資本金を1億円以下に設定したりして、課税対象から外れる動きだ。近年ではコロナ禍での業績悪化によりエイチ・アイ・エスや、経営再建中の日医工などが資本金の減資を実施した。外形標準課税の対象法人は06年度の2万9618社をピークに、20年度は1万9989社と約1万社減っている。

こうした「外形逃れ」を防止するため、総務省は資本金と資本剰余金の合計が50億円を超えた場合に課税する新たな基準案を示した。加えて、新たな基準を上回る企業の100%子会社も対象にする。総務省の担当者は「資本金の減資などで課税方法が変わるのは、公平性の観点から問題があるのではないか」と訴える。

経産省・商工団体/反発「賃上げに逆行」

一方、経産省は新たな課税基準について、増資により資金調達を行うスタートアップや、M&A(合併・買収)を実施し資本が増える中小なども対象になる可能性があると問題点を指摘する。経産省は「総務省は『実質的大法人を対象にする』と主張するが、いつ課税水準の見直しがあるか分からない」と将来の対象拡大を懸念する。

対して総務省は「地域経済や中小には配慮する。念頭にあるのは企業規模が大きいのに、減資や分社化によって課税の対象になっていない法人だ」とし、「中小やスタートアップが対象にならないような高い水準を設定すれば良いはずだ」と反論する。実際、外形標準課税の導入以降、従来の課税水準である「資本金1億円超」が変更されたことはない。

反対派は政府全体で賃上げを推進していることも理由に挙げる。外形標準課税は賃金も課税標準としており、各商工団体は「『構造的・持続的な賃上げ』の方針に完全に逆行するものであり、看過できない」と反発する。自民党の伊藤達也中小企業・小規模事業者政策調査会長も「中小にも影響が出る」とし、「中小の世界にこうした話が出てくること自体おかしい」と話す。

対して総務省は「収益配分に対し、給与額の比率が高い場合の一部や給与の増加額を控除する措置を講じている」と賃上げには配慮していると反論する。

外形標準課税の見直しについては、与党税制調査会で年末まで話し合われる。対立は深く「今後については全く見通せない」(総務省)状況だ。別の経産省幹部は「総務省は振り上げた拳は下ろさない。今回ダメでもまた同じ話を持ち出してくる」と話す。来年度以降も議論が続く長期戦に突入する可能性もある。

インタビュー/適切な基準設定不可欠・大東文化大学准教授・布袋正樹氏

総務省の外形標準課税見直し案について、企業税制が専門の大東文化大学の布袋正樹准教授に聞いた。

―見直し案をどう見ますか。
「外形標準課税から逃れられるというのは、低収益の企業にとって魅力的だろう。赤字や収益が少なければ、負担する税額が大幅に少なくなるからだ。今回の見直し案は実質的な大企業の課税逃れの阻止を意図したもので方向性は評価できる。一方、課税対象になる資本金と資本剰余金の基準の設定次第では、新基準を下回るようにする動きが起こり『いたちごっこ』になる可能性もある」

―経済界は中小などに影響が出るとして反対の姿勢を崩していません。
「中小やスタートアップは外部の資金調達に制約を抱えている。資本金と資本剰余金の基準を低く設定すれば、中小などが悪影響を受ける可能性がある。この点を考慮し基準を設定する必要がある」

―政府は賃上げや地域の有力企業を支援する政策を展開する方針です。見直し案はこうした動きと矛盾しませんか。
「そもそも外形標準課税は税負担の公平性や税収を安定させる側面がある。中小を対象外にしているのは、資金調達が制約されていることへの配慮だ。特にスタートアップなどは事業リスクが高く、融資など外部資金が獲得しにくい。内部資金が重要になるため、課税対象外にしている。また中小を社会的弱者と捉え支援する側面もある。こうした背景から考えれば、(減資で税逃れを図ろうとする)規模が大きい企業へ課税する仕組みの構築は不可欠だろう。賃上げや地域の有力企業への悪影響は、課税基準を適切に設定することで避けられる。有力企業が中小の基準を外れる場合、原則に従い課税するのは仕方ないのではないか」

―実効的な地方法人課税の構築に向けて必要なことは何でしょうか。
「総務省は減資により課税を逃れる法人を阻止したい意向だが、新しい基準を下回るようにする動きも想定しうる。こうした動きをけん制するため、見直し前に新しい基準を上回っている場合は課税対象にするのも一案だ」

日刊工業新聞 2023年12月01日

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