究極のエネルギー「核融合」実用化へ壁、燃料「トリチウム」に供給懸念
究極のエネルギーとして期待を集める核融合。実用化を目指し、プラズマ制御などの技術開発が進む。だが、足元では燃料である三重水素(トリチウム)の供給懸念が高まっている。トリチウムは核融合発電に必須でありながら、供給が一部地域に限定される。今後は供給量が減っていくことが予想されており対策が求められる。(小林健人)
「国際熱核融合実験炉(イーター)はもちろん、スタートアップにおいてもトリチウムの供給問題は議論に上るはずだ」。京都大学発ベンチャーの京都フュージョニアリング(KF、東京都千代田区)の中原大輔経営企画部部長はこう話す。
核融合発電にとってトリチウムは重要だ。現在、多くの研究機関やスタートアップは重水素とトリチウムの核融合反応(D―T反応)による発電を目指している。ただトリチウムは自然界にほとんど存在しない。そのため商用の核融合発電では、炉自身でトリチウムを増やす必要がある。具体的には反応で生じる中性子をリチウムと反応させ、トリチウムを作る。
一方、運転開始時には外部からトリチウムを投入する。この時に使うのが重水炉と呼ばれる原子炉の副産物として生産されたトリチウムだ。軽水炉でもトリチウムはできるが量は少ない。富山大学水素同位体科学研究センターの波多野雄治副センター長は、トリチウムの量をピンポン球に例えて「重水炉では1000個のピンポン球の中から色が違うものを3個探すようなもの。軽水炉だと1億個のピンポン球から3個を探すくらいの違いがある」と説明する。
現在、重水炉はカナダや韓国など一部の国でしか運転されていない。またトリチウムはあくまで発電時の副産物のため、「回収できるトリチウムは年間3キログラム以下だ」(波多野副センター長)。重水炉は耐用年数に応じて、今後稼働する炉が減っていくことが予想される。
核融合炉を動かすにはトリチウムを数キログラムから数十キログラム程度投入する必要がある。2035年にD―T反応を予定するイーターに加え、海外のスタートアップは30年代に発電実証を目指している。今後、トリチウムの供給が落ち込めば、30年代に急激に伸びる需要に応えられないのは明白だ。
KFはこうした状況を見越して先手を打つ。9月にカナダ原子力研究所(CNL)と戦略的業務提携契約を締結した。KFはプラズマや不純物中に反応せずに残ったトリチウムを分離、回収する燃料システムを開発する。CNLが持つトリチウムを使い、KFの燃料システムを核融合炉に近い状況で実証する。両者は共同研究設備も立ち上げ、燃料システムの性能を高める。将来は核融合炉を開発する企業への技術導入を目指す。中原経営企画部部長は「トリチウムは100グラムオーダーでも入手できればすごいと呼ばれる世界だ。CNLとの関係性を通じて技術開発を加速させる」と話す。
ただ核融合炉が本格的に立ち上がれば、重水炉由来のトリチウムだけで運転を維持することはできない。波多野副センター長は「重水素だけで運転を開始したり、運転中にトリチウムをより増やしたりするなどの技術開発が進んでいる」と説明する。核融合発電の実現に向けては、サプライチェーン(供給網)にも目を向ける必要がありそうだ。
【関連記事】 「新生・東芝」のニュースをまとめて読める「ジャーナグラム」はこちらへ