三菱電機が挑む「透明アンテナ」実用化への現在地
三菱電機が「透明アンテナ」の実用化に取り組んでいる。透明にすることで意匠性が高まり、多様な用途での設置が可能。社会のデジタル化や第5世代通信(5G)の普及に伴って多くの製品にアンテナの設置が求められる中、自動車や窓ガラス、液晶ディスプレーなどで透明アンテナを活用すれば外観を損なわずに済む。同社情報技術総合研究所の稲沢良夫アンテナ技術部長は「3、4年の間には実現したい」と展望する。(編集委員・小川淳)
液晶用途で開発された透明導電材料は、大型ディスプレーのタッチパネルに対応するために近年は低抵抗化が進んでおり、酸化インジウムスズ(ITO)に代わり、極細の金属によるメタルメッシュが普及してきた。抵抗の影響を受けやすい高周波でも使用可能な性能となり、透明アンテナへの応用の機運が高まっている。
三菱電機では透明アンテナの試作に当たり、感光性導電材料「RAYBRID(レイブリッド)」を採用した。高い可視光透過率と低い抵抗を両立しているという。
透明アンテナの主な用途として考えているのはスマートフォンやタブレット端末などに搭載する液晶ディスプレー、ガラス、そして電子レンジなどに用いる電磁シールドだ。
このうち液晶ディスプレー向けでは、透明アンテナによって液晶全体を覆う新方式を採用。透明アンテナと金属フレームの隙間に発生する電界を放射源とし、放射源の直下に液晶がないため、損失電流を低減するなどの工夫をした。その結果、入力電力に対する放射電力の割合は従来の2・3倍に向上し、安定的な通信を実現したという。ディスプレーの視認性では透明アンテナを置いても、9割程度を確保するなど、視認性に問題はない。
また窓ガラスへの実装技術でも新方式を採用し、金属サッシ上に設けた給電素子から給電するため、従来のようにケーブルを使わないで済む。このため景観を損なわず、デザイン性を生かすことができる。稲沢アンテナ技術部長は「金属のアンテナだと置く場所が限定されるが、窓ガラスならいろいろな場所にある」と期待する。
このほか、電子レンジの電磁シールドとしての応用も模索する。既存の電子レンジでは電波を外に漏らさないため、金属板に多数の穴を開けたパンチングメタルを電磁シールドに使う。この代わりに透明導電材料で作った金属板を使えば、中の料理の状態を確認しやすくなり、調理の効率化につながる。
さらに複数枚のメッシュ構造を近接させることで、電力損失が4分の1になるメリットもある。電子レンジのほか、木材乾燥や半導体製造装置などマイクロ波加熱装置への応用も検討する。
三菱電機では現在、応用の出口としてさまざまな製品を模索しているが、現時点で透明アンテナは「要素技術として確立したという状況」(稲沢アンテナ技術部長)だ。実用化や量産に向けては製造技術の確立も求められる。
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