印刷インキメーカーDICの新社長、池田尚志氏の素顔
DICは30日、2024年1月1日付で池田尚志常務執行役員(58)が社長に昇格する人事を発表した。猪野薫社長(66)は代表権のある会長に就く。社長交代は6年ぶり。池田氏は生え抜きで幅広い業務に携わり、海外経験も豊富。新たな経営ビジョンを示して事業ポートフォリオ変革を目指す中、トップの刷新で変革の加速につなげる。
DICは印刷インキで世界トップシェア。22年には30年までの新たな長期経営計画が始動。新規事業創出などでインキ製品に依存しない事業ポートフォリオ変革を進め、新規事業創出や既存事業の「選択と集中」に取り組む。猪野氏の下では約1289億円を投じ独BASFの顔料事業を買収するなど複数のM&A(合併・買収)を実行。新興企業への出資や非注力事業の切り離しなども並行し、成長の礎を築いてきた。「今後は実績化が求められる」(猪野氏)とし、将来像の具現化を次代に託す。
猪野氏は「企画構想力に優れ、グローバルでの実行力のあるリーダーになる資質を持ち合わせている」と池田氏を評価する。池田氏は長期的な経営ビジョンを受け継ぎつつ「30年よりも近いところで方向性を明確化したい」と語り、就任を機に成長への道筋をより具体化していく考えだ。
【略歴】池田尚志氏 90年(平2)慶大院理工学研究科修了、同年大日本インキ化学工業(現DIC)入社。20年執行役員、22年常務執行役員。大阪府出身。
色に染まらぬ“個性派”
ポリマーの研究を皮切りに、経営企画や新事業の立ち上げなど国内外で幅広い経験を持つ。特定の部門や組織の色に染まらないキャリアを歩み、「DICの中でも個性的」と自他共に認める。同社が変革期にある中、「日本の企業社会で常道的でないやり方を実行する場面が増えるだろう」と、柔軟な発想を経営に生かす。
米国留学を経験し、2001年に経営大学院修士号(MBA)を取得。当時はフェノール類の研究開発に従事していたが「大きなビジネスを動かしてみたい」と社内制度の1期生に手を挙げた。13年からは米子会社サンケミカルに転じるなど海外経験を積み、グローバル感覚を磨いた。
趣味は音楽鑑賞。フォーラムを通じて交流を持ったノーベル化学賞受賞者の野依良治博士を尊敬する。「理念と現実のギャップに悩んでいた時期に、人と異なる視点や考えを認めてくれた。機会があれば報告したい」とはにかむ。(大川諒介)