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海外パビリオン建設に暗雲…万博まで1年半、準備の実情

海外パビリオン建設に暗雲…万博まで1年半、準備の実情

万博会場の工事現場。会場で象徴となる木造では世界最大級の円形大屋根

2025年大阪・関西万博の開幕まで1年半を切った。海外パビリオンの建設が遅れている問題が7月に表面化したほか、資材価格や人件費の高騰により建設予定費の2度目の上振れに追い込まれる問題も起きた。国は危機感を抱き、準備・運営を担う日本国際博覧会協会(万博協会)をてこ入れするが、25年4月の開幕に間に合わない事態を危惧する声は収まらない。万博準備はどう進んでいるのか、実状に迫った。(万博取材班)

内外装自由“第4のタイプ”―協会新提案、移行進まず

「どれだけ(予算を)削減し、(実現)できるか考えている」。大阪・関西万博で8人いるテーマ事業プロデューサーの1人、映画監督の河瀬直美氏は自身のパビリオン「河瀬館」の経済的課題に挑む。

三つの建築物で構成する予定の河瀬館は、奈良県と京都府の歴史ある二つの廃校を解体して入手する古い建築材料を使って作る計画。「万博のパビリオンは通常、半年で壊してしまう。多くのお金を使い大型で新しい建物を建てる発想は今の時代にそぐわない」と河瀬氏。持続可能性を重視して万博終了後、パビリオンを移設し生かすことを検討する。魅力ある展示内容と、予算や工期という現実の課題にどう向き合うか。河瀬氏と同様に万博関係者は難題を突き付けられている。

今回の万博は153カ国・地域が参加を表明する。海外パビリオンは自前で設計・建設する「タイプA」が約50カ国、万博協会が建設し参加国が借り受け内装を施す「タイプB」および「C」で約100カ国を計画する。ただ前回のドバイ万博がコロナ禍の影響で1年延期となり、日本の建設市場が逼迫(ひっぱく)する中、タイプAで30カ国程度の建設事業者が決まっていない状況で建設の遅れが指摘される。

協会は今夏、各国への支援策として箱形状の建物を協会側が建設し内外装を自由にできるパビリオン「タイプX」を提案した。Xに関心を持つ国は10カ国程度で移行決定は1カ国にとどまる。

会場建設費の上振れも課題だ。協会は直近の精査で建設費が従来より500億円増の最大2350億円となる見通しを示した。2度目の増額となり最初の計画の約1・9倍に膨張。万博は国家事業のため、3分の2は公費(国と大阪府・市が3分の1ずつ)が投入される。国民の理解が求められる。

そして残り3分の1は経済界の負担。特に関西経済連合会は松本正義会長が「最大の努力をする」とし、経済界の資金集めを先導してきた。関経連は万博チケットの前売り券購入にも積極関与する。

協会の後手の対応は、経済界の努力や万博の機運盛り上げムードに水を差す。国や自治体、民間企業の出向者で組織する協会だが、「情報が来ない。マネジメントが悪い」(関西経済界幹部)と批判の声がある。この10月、協会内に総合戦略室が新設された。国は経済産業省出身の三浦章豪氏を3カ月で近畿経済産業局長を退任させ、室長に充てた。組織内をとりまとめ、意思決定の遅いプロジェクトの加速を狙い、挽回を図る。

民間パビリオンの構想発表会。コンセプトや外観模型などが披露された

万博は未来社会の実験場がテーマだ。新たな移動手段である空飛ぶクルマ、会場内の全面的なキャッシュレス決済、バスの自動運転などの社会実装を目指す。協会は民間パビリオンの展示内容を一斉に伝える発表会を開いたり、実力派漫才コンビを使ったユニークな万博PR動画を作成したりして工夫を重ねる。

11月30日―。開幕500日前となるこの日、万博の前売り券が発売される。それまでに協会は海外パビリオンの建設遅延などの問題に対し解決の方向性を示せるか。万博の成功を占うターニングポイントになる。

工事受注可否、検討も困難―設計図面、準備に遅れ

海外パビリオン建設工事の遅れで予定通りの開催すら危ぶまれる万博に、建設業界は懸念や危機感を募らせている。資材価格の高騰など、業界全体にのしかかる構造的課題が対応をさらに難しくしている。

日本建設業連合会の宮本洋一会長(清水建設会長)は9月の定例会見で海外パビリオンに関し、「発注者である外国政府による精度の高い設計図面の作成をはじめとした準備が遅れ、必要な情報が提示されていない」と指摘。建設会社が受注可否の検討にさえ至っていない現状に不満をあらわにした。その上で、「精度の高い設計図書と予算、工期の裏付けのある発注が1日も早くなされることを期待している」と注文を付けた。

混乱の影響は、現場にも不満となって広がっている。「今の万博工事は不安しかない」。パビリオン建設に関わる建設会社の幹部は、万博会場で現場作業員の声を集めた資料を手にそう語る。

万博が開かれる埋め立て地・夢洲(ゆめしま)は一部区画を除き、電気や水道といったインフラ整備が遅れている。多くの工事で発電機が持ち込まれ、給水車で水を運搬する。資料には「晴天時は粉じんが多く、雨天時は敷地全体がぬかるむ」「現場環境が悪いため、作業員が敬遠し人員確保が難しい」など、苦情や要望が連なる。

海外パビリオンの多くで建設事業者が決まっていない問題について、前出の幹部は「建築コストは2倍の開きがあり採算に合わず、今の工期では受けられない」と断言する。建設業界では、一部の海外パビリオンは開幕に間に合わず歯抜け状態になるとの見方が強まっている。

政府、次官級派遣でてこ入れ

準備の遅れに対して政府も手を打つ。一つは人員の派遣だ。経産省は8月、前事務次官の多田明弘顧問を万博担当に任命した。万博協会の石毛博行事務総長を補佐する。また同じく次官級でナンバー2の経産審議官だった平井裕秀氏を海外との調整業務役として万博担当に任命した。同省幹部は「権限を持つ人間が交通整理すれば、もう少しスムーズに物事が進むのではないか」と話す。そのほか多くの人員を万博協会に派遣し準備を急ぐ。

パビリオン建設の遅れについて自見英子万博相は、マスコミ各社の取材に「開幕までに間に合わせることを目指しており、(開催の)延期は考えていない」とした上で、「海外パビリオンの建設で一番の課題は参加国と建設業者との契約が進んでいないことだ。国ごとに担当者を設置し、参加国に予算の増額やデザインの簡素化によるコスト削減、工期短縮化の要請を行っている」と説明した。

建設費上振れについて、西村康稔経済産業相は24日の会見で「物価、人件費の高騰など理解できる部分もあるが、必要なものなのか精査している。その上で必要であれば、国や自治体、経済界で協議し対応を検討する」とした。建設費を抑えながら、パビリオン建設の遅れを解決するためには、政府のさらなる積極的関与が欠かせない。

日刊工業新聞 2023年10月27日

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